第6話 止まぬ猛攻

歓楽あう様、素敵なレビューをありがとうございます。

キャラの造形は作者が一番楽しんでやっている所ですので、お褒めいただきとても嬉しいです!

描写のバランスももっともっと成長して行けたらいいなと思っています( ◜ᴗ◝)

──────────────────────────



「ヒ、ヒナタちゃん……?」


 どうしよう、友達と仲良くしようとしただけなのに何か怒ってる……?

 ──ハッ! なるほど!

 ヒナタちゃんは、俺にルイを盗られると思って嫉妬してるんだな(名探偵)


「大丈夫だよ、ヒナタちゃん」

「……何がですか?」


 うっそりと暗い瞳を俺に向けるヒナタちゃん。

 だが安心してくれ。推しの心配を取り払うのが、オタクの本懐である。

 俺は笑顔を浮かべ、



「(ルイの)一番は絶対、ヒナタちゃんだから!」



「はっ、はあ……っ?」


 あれ? なんかヒナタちゃんが「なに言ってんだコイツ」みたいな目で見てる……?

 いや、天使なヒナタちゃんがそんなこと思うわけないか。


「昔からずっと、一番は君だよ。心配なんてしないで」


 ともかく今はルイがヒナタちゃんを一番大事に思っているってことを強く伝えたい。

 俺なんか数回殺されかけているもんね。


「え……ええ……?」


 けれど、ヒナタちゃんはまだ信じきれていないようだった。


「いやだって、クシナちゃんとか……」

「クシナ? クシナは関係ないでしょ」

「嘘でしょ……まさか気づいてないんですか?」


 俺の知る限り、クシナとルイに接点なんてないはずなんだけど……ひょっとして会ったことあるのかな? 今度聞いてみよう。


「お、おにいさんって、ひょっとして、くずやろう……?」


 ぼそぼそと何事かつぶやくヒナタちゃん。

 伺うようにこちらを見てくるので微笑んだまま首を傾げると、彼女は慌てたように目を逸らした。


 どうやらまだ迷いがあるようだ。

 だが──だからこそ、ここで畳み掛けるッ!


「ヒナタちゃんと雨剣さんなら2人で幸せになれるよ!」

「ふっ、2人で!?」

「? うん」


 ぶっちゃけ『わたゆめ』での百合は恋愛というより親愛寄りのものだった。

 俺はどっちも尊いと思えるタイプのオタクだったので、どっちでも構わない。


「きょ、今日のお兄さん、何かヘンですよ!」

「え、そうかな?」


 俺はいつもこんな感じだけど。


 ……しかし、ここまで言っても頷いてくれないとは、よほどルイを取られたくないと見える。

 百合百合してて結構だが、俺はこんなところで躓くわけにはいかないのだ。


 こうなれば俺に残された手段はもう、真っ直ぐにぶつかることしかない。

 隠す必要はないのだ。


 ──推しを最前列で見守り続けること。


 俺はもう、それを心に誓ったのだから。


 スッと背筋を伸ばして、ヒナタちゃんを真っ直ぐに見つめる。

 すると、彼女はたじろいで、スカートの裾をきゅっと握った。


「ヒナタちゃん」

「な、なんですか……?」

「これは俺が、これからも君と一緒にいるために大切なことなんだ」

「────」


 ヒナタちゃんが目を見開いた。


「君も薄々勘づいているだろうけど、俺と雨剣さんの仲は良好とは言えない」

「…………」

「それでも、俺は君の傍にいたい」

「………っ」


 推しとオタクとしてだけじゃない。

 この子の兄貴分として、俺はこの子の力になりたい。


「だから、雨剣さんにもそれを認めてほしい」

「──……っ」


 じわじわとヒナタちゃんの頬が赤く色付いていく。

 ……自分でも小っ恥ずかしいことを言っているとは分かっている。

 それでも、


「君の傍にいたいんだ」


 宣誓にも似た、推し活宣言。

 果たしてヒナタちゃんは、


「ぁ、はいぃ……」


 項垂れるように頷いた。


「今日のおにーさん、ちょっとズルすぎます。……ばーか」

「あはは」


 流石に恥ずかしくて頬をかく。

 でもこれくらい、ルイからの誤解を解くためなら大したことじゃない。


「なんか変な感じになっちゃったけど……これからもよろしく、ヒナタちゃん」

「──はい、よろしくお願いします、おにーさん……♡」


 ヒナタちゃんは、美しく色づいた笑顔を咲かせた。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



「それで、雨剣さんのことなんだけど……」


 えへへ〜と、やたら上機嫌なヒナタちゃんに、おずおずと本題を切り出す。

 すると、彼女はムッという顔をした。


「お兄さんは本当にムードというものが分かってませんね」

「ん? ムード……?」

「まあ、今日のところは許してあげます」

「ありがとうございます?」

「よろしいです」


 ヒナタちゃんはツンと顎を上げた。

 なにそれかわいい。

 ……じゃなかった、本題です。


 確認になるが、原作『わたゆめ』ではヒナタちゃんがルイと仲良くなったのは、正式に【循守の白天秤プリム・リーブラ】に入隊してからのことだ。

 養成学校スクールから溺愛ルートなんてものは一度も聞いたことがない。


 つまり、今回俺はヒナタちゃんから『養成学校スクールで二人に何があったのか』を聞き出さなければならない。

 そこにヒントが隠されているはずなのだ。


「ヒナタちゃんと雨剣さんは、すごく仲がいいよね?」

「はい、そうですね。──”本当の友達”と、そう言ってもいいと思っています」


 なんか「本当の友達」をめちゃくちゃ強調された……。

 やっぱり、友達を盗られないか、まだちょっと不安なんだろうな。


 でも大丈夫!

 俺は弁えたオタクなので百合の間に挟まる気はありません( ◜ᴗ◝)


「仲が良いのは何よりだよね。養成学校スクールでも、何か特別なことがあったりしたの?」

「ルイちゃんとは……うん、色々ありましたけど……」


 そうですね、と言って、ヒナタちゃんは真剣な表情をした。


「ここからの話は絶対に他言無用でお願いします」

「──うん」


 ヒナタちゃんも頷きを返してから、一度、深呼吸をする。


天翼の守護者エクスシア養成学校スクールにはインターンシステム、というものがあるのを知っていますか?」


 インターンシステム、というのは『わたゆめ』には出てきていない。

 本編開始時には、養成学校スクール編はすでに終わっているからだ。

 だが、現実のインターンと照らし合わせるならば、


「【循守の白天秤プリム・リーブラ】での実地研修ってことかな?」

「はい。そこでは現役の天翼の守護者エクスシアの下について、二人一組ツーマンセルで行動し、天使の仕事を学びます」


 そこで、ヒナタちゃんはふと俯いた。


「その時はちょうど強盗グループを捕縛することになったのですが、……そこで起きた不手際によって、犯人グループの一人が逃げ出してしまったんです」


 彼女の目元には影が落ち、俺からは伺えない。


「わたしは焦って一人で追いかけてしまい、その不意を犯人につかれました」

「ええっ!? 怪我はしていないの!?」


 問うと、ヒナタちゃんは力無く笑った。


「わたしは大丈夫です。ただ、その代わり、わたしを守ろうとしたルイちゃんは──」


 桃色の瞳が、淡々と俺を射抜いた。


「──犯人を、殺してしまったんです」



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