大戦犯

時系列としては『幕間 正義の城と悪の巣窟』の次の日くらいです。

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 〈刹那セツナ〉傘下、〈乖離カイリ〉の素顔が監視カメラに映っていなかったことについて、副支部長・信藤イサナは「しゃーなし」の一言で済ませた。


 けれど実際問題、「映ってませんでした、終わりです」とはならない。

 なったら困る。


 そこで出番となるのが俗に言う「似顔絵捜査官」だ。

 天稟ルクスによって飛躍的に発展した社会でもこういった前時代的アナログな部分は変わらない。


 どうにかならないものか、と辟易しながらルイは完成した似顔絵をイサナの元へと提出しにいった。


 で、完成品を見た副支部長殿の最初の一言がコレである。



「───雨剣うつるぎちゃんの理想のタイプとかなの?」



「はっ、はああっ!?」


 断固として、断固として許されざる誹謗中傷だった。


「そんなわけ……っ!!」


 ルイは滅多に出さぬ叫び声を上げる。

 対するイサナは、


「いや誰がこんな少女漫画のヒーロー信じるんだよ!!」


 見ていた似顔絵をくるりとルイに見せつけながら、デスクを叩く。

 描かれているのは、これでもかと言わんばかりに美形の男。


「んなっ……くっ……!」


 嘘偽りのない事実であるだけに、ルイは口をつぐまざるをえない。


「一瞬だったんでしょ? ほんとーうにこんなイケメンだったわけ……?」

「……いや」


 ルイの頭の中で、フードが外れて呆然とするイブキの顔がぼやけていく。


「うーん、茶髪とか緑の瞳とかも、今となっちゃ正直ありふれてるからなぁ……」


 100年前とかは黒髪黒眼しかいなかったみたいだけど……とイサナが付け加えた。


「…………」


 いよいよ押し黙るルイ。

 たしかにコレは誇張しすぎたかもしれない、という思いがじわじわと脳を侵食していく。


 そういえば人間は一瞬だけ見たものの特徴を誇張して覚えると聞いたことがある。

 あるいは自分が既に知っているものに寄せて記憶してしまうとも聞いた気がする。


 やがてルイは考えを纏めた。


(これはきっと良く描きすぎたわね、うん)


 ───かくして全く似ていない似顔絵が世に解き放たれた。




 ♦︎♢♦︎♢♦︎




「ねえ、〈刹那セツナ〉の部下だっていう〈乖離カイリ〉の手配書見た?」

「見た見た〜」

「こういうこと言うとアレだけど、結構・・イケメンだったよねぇ〜」


 2人の女性が会話をしながら、街中の詰所を通り過ぎる。

 彼女らとすれ違って、──クシナは足を止めた。


 ふと見れば、詰所の脇に置かれた告知板には手配書がいくつか貼られている。



[第一級手配者]


救世の契りネガ・メサイア】六使徒・第二席〈絶望ゼツボウ〉───本名、ゼナ・ラナンキュラス


連続殺人犯〈誘宵いざよい〉───本名不明


 ・ ・ ・



 黒髪の少女の写真、目つきの鋭い女性のモンタージュ写真……と並んでいく中。

 その一番下に新たな手配書が追加されていた。



救世の契りネガ・メサイア】〈刹那セツナ〉傘下〈乖離カイリ〉───本名不明。



 その文言と、彼の者の似顔絵。


「……全然似てないけど」


 クシナは思わず突っ込んだ。


 強いて言えば垂れ目なあたりが似ているが、その程度の特徴しか捉えられていない。


「──クシナ? どうかした?」


 立ち止まるクシナに、前方から声が掛けられる。

 足を止めてこちらを振り返るイブキは、マスクをして顔を隠していた。

 クシナは彼に微笑を向けると、歩み寄る。


「なんでもないわ」

「ホントに?」

「ほんとに」


 応じてから、付け加える。


「あと、別にマスクはいらないみたいね」

「おっ、マジでっ?」

「まじで」


 やや警戒混じりに、けれど嬉々としてマスクを外すイブキには聞こえないように呟く。


「本物は"結構"どころじゃないもん」




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シトさま(さま)、素敵なレビューをありがとうございます。

クシナの出番はこれから先どんどんと増えて参りますので、楽しみにしていただけたら嬉しいです。


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