ラッキー7の隣人
月井 忠
第1話
俺の親友ナナオはラッキー7の男だ。
あるテーマパークに行ったときには77万7777人目の客だった。
初めて買った馬券は、単勝7番で万馬券。
初めて付き合った彼女の名前はナナ。
そして、自分の名前にもナナが入っている。
そんなナナオの隣にいる俺はアンラッキー7の男だった。
一緒に行ったテーマパークでは77万7778人目の客だった。
初めて一緒に買った馬券は、当然外れた。
ナナオの初彼女ナナは、俺の初恋の相手だった。
ちなみに、俺の名前に数字は入っていない。
思い出を共有しているから、一緒に飲むといつもこの話になる。
今日もそうだった。
ナナオは嬉しそうに過去のラッキー7の話をしながら、ビールを流し込む。
俺はナナオの面白くない自慢話を聞きながら、唐揚げを口に入れる。
人生は不公平だ。
ナナオは楽しい記憶ばかりを残し、俺は嫌な思い出を引きずっている。
もちろんナナオが7で損をしたこともある。
しかし、そんな時ナナオは決まって不機嫌になるから、いちいち記憶に残さない。
俺が7で良い思いをした時も同様だ。
ナナオはラッキー7を達成した時の記憶しか残さず、語るのもその時のことだけだ。
俺たちの関係はナナオが話し、俺が聞くというのが常だった。
俺はいつもナナオのラッキー7の話を聞きながら、俺のアンラッキー7を実感する。
俺はこの不公平を正そうと考えた。
「これで7杯目!」
そう言ってナナオはジョッキを机に置く。
「また俺の一杯、勝ちだな」
「多く飲めるからって偉いわけじゃないぞ。それに俺は7杯で、あえて止めるんだ」
ここでもナナオのラッキー7は健在だ。
「おっと、もう10時だな。お開きにするか?」
スマホの時計を見て聞く。
「ああ。もう2時間経ったのか」
ナナオの顔は赤い。
「すいません、お会計!」
店員が持ってきた伝票をナナオが引ったくる。
「ホラ! 7千円台!」
「ああ、そうだな」
俺はもうアンラッキー7の男ではない。
ナナオのしょうもない発言も流すことができる。
「小銭あるか? 俺5円あるけど」
ナナオに聞く。
「ちょっと待って。あった、3円」
会計を済ませると、ナナオを先に歩かせ、下駄箱に向かう。
「見ろよ。今なら7番、開いてるぜ」
俺は板の鍵を入れながら、一つ上の下駄箱を見て言う。
「あ、本当だ。俺のラッキーナンバー奪ったヤツは誰だよお」
こんなことだってあるのだ。
チーンと音を立てエレベーターがやってくる。
初めは俺たち二人だけだったが、一つ下の7階で二人、5階で四人乗り込んできて、エレベーターはぱんぱんになった。
「うは~。きつかった」
ナナオは大きく息をつく。
「なんか今日は7との巡り合いが悪いなあ。7日でもないし~」
「昨日だと木曜日で、どうせ無理だろ?」
「そうなんだけどなあ~」
まあ、俺がわざわざ7日に飲み会を設定するわけもないのだが。
「じゃあ、またな!」
ナナオは手を振って、俺とは別路線の駅に向かう。
「ああ、また連絡する」
俺も手を振って返す。
俺はアンラッキー7を解消するために、ラッキーナンバーを自分に設定した。
ラッキー8だ。
八は末広がりでいいし、7の隣にいる数字だ。
初めは自分の周りで8という数字を探した。
俺の妻は8月生まれで、職場は8番地だった。
もちろん、こじつけに過ぎない。
妻は8日生まれじゃないし、職場は8丁目でもない。
それでも、7の呪いから開放された気がした。
もっとも近頃は、ナナオのことを笑えなくなっている。
目の前には、短い階段がある。
俺は何気なく段数を数えながら下りた。
今日は8杯の酒を飲んだ。
今回の飲み会の集合時間を8時に設定したのは俺だ。
ナナオが7千円台と言ったとき、俺は7958円の一円台を見ていた。
ナナオは7番の下駄箱を使用できなかったが、俺は8番の下駄箱を使った。
俺が選んだ飲み屋は8階にあった。
エレベーターには全員で8人が乗った。
今日は8日だ。
そして、階段はちょうど8段だった。
最後はいつもこんな感じでしょぼい。
しかし、俺はこの日課をいつも続けている。
一日の中で8に関する事象を8個見つける。
俺はアンラッキー7の呪いから解放された。
しかし、俺は新たにラッキー8の呪いにかかったようだ。
ラッキー7の隣人 月井 忠 @TKTDS
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