妻からの贈り物

広川朔二

妻からの贈り物

 七月七日、今日は特別な一日になる。


「あなた、おはよう。お誕生日おめでとう」

「あぁ、おはよう、ありがとう」


 妻と結婚して十七年。子供を望む妻だったが私が拒絶したために子宝に恵まれることは無かった。子供に自分の時間をとられるのが嫌だったから。昔はそのことで喧嘩もしたが専業主婦である妻が私に逆らうことは許さなかった。


 生活できているのは私のおかげ。それを理解したのか今では甲斐甲斐しく私の世話を焼いてくれている。


「残念ね。折角の誕生日なのに仕事だなんて」

「仕方ないさ」

「プレゼント、用意してあるからね」


 今日は仕事と伝えているが本当は彼女とのデートだ。妻からの贈り物などどうでもいい。妻よりも若く美しい彼女に早く会いたい。今日は最高の日になるはずだ。


 余談だが妻の名も、彼女の名も「ナナ」。間違う心配もない。


 プロポーズの時に君の名前は僕のラッキーナンバーだ、などと言ったな。その通り、私にとってその名は幸運だった。


 妻が淹れたコーヒーを飲みながらスマホを確認する。アプリで届いた彼女からの愛の囁きが私の心を昂らせる。あの瑞々しい肌、私を受け入れた時の高揚した顔、間もなく訪れるその妄想に支配されていく。


 彼女との逢瀬、それは夢か現か。


「ん?」


 気が付くと手足が拘束され身動きが取れず、口は塞がれている。服も着ていないようだが目隠しされているので確認は出来ない。


「目が覚めた?」


 聞き慣れた妻の声。抗議をしようと試みるが無駄に終わる。


 乱暴に外されたアイマスク。爪が頬を傷つけたのかひどく痛む。目に入ってきたのは鮮血で染まった寝室と返り血で真っ赤な妻。


 湿り気を帯びたベッドに嫌な予感をして体を確認する。血が付着しているものの私の体は無事だ。


「あなたも大好きな彼女と同じ場所へ連れて行ってあげる。頭、胸、右腕、左腕、腹、右足、左足に分けて。七はあなたのラッキーナンバーですものね」

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妻からの贈り物 広川朔二 @sakuji_h

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