春風と共に

サクラ

第1話 出会い

「ありがとうございましたー」


今日も仕事を終えて帰宅。

夕食はコンビニ弁当にした。

料理好きなのだが洗い物が苦手、こういう人は少なからずいるんじゃないかな。

夕食が済んだら何をするにでもなくスマホをいじったりテレビを観たりして時間だけが過ぎていく。

風呂は就寝の儀式みたいなもんで個人的には好きじゃない。


「明日の休み何しよう…」


そんな事を考えながら床についていたらいつの間にか寝てしまい、気付いたら朝になっていた。

電気もつけっぱなしだったようで寝起きが悪い。

怠い身体を引きずるように朝飯の用意をしようと玄関に置いてある野菜BOXに向かうと、その横にある竿とリールが目に入った。

釣りをしようと昨年買ったが忙しさにかまけて放置していたものだ。


「やること見つからんし釣りにでも行ってみるか」


朝飯はニンジン・タマネギ・ジャガイモを細かく切ってコンソメで作った野菜スープで済ませ釣りの用意を始めた。

用意といっても釣りは初心者、えさもルアーという疑似餌だ。

数分で終わる用意ですらかったるさを感じるくらい身体が怠い。

やはり人は暗くして寝るべきだなぁ…


川は歩いて5分もしないとこにある。

橋の下は流れが急になっており、たまにニジマスもあがるらしい。

が、そもそも釣れるか否かより釣れない時間に耐えれるのかが問題だった。


橋の下に着いてみるといつもいる釣り人が全くいない。これは釣れないという事なんだろう…。

橋の下は日陰なのだが、わずかながら光が射す場所があった。


「光合成がてら陽射しを浴びながら釣りをするか」


わずかばかりの陽射しを浴びながらYou Tubeを開き

"川釣り 流れ速い ニジマス"

と検索して適当なYou Tubeにて教えを乞う。

ホームセンターで買った簡易リクライニングチェアに座りながらだが、これはなかなか良い商品だと今更ながら気付いた。


セッティングも終わり、さぁ釣るぞと意気込んだまでは良かったが30分ただただ投げては巻いての繰り返し。

一時間もしたら竿を立て掛け、川の流れを見ているだけとなった自分に何となく納得してしまうのが今の姿なんだろう。


そんな事を考えている内にわずかな陽射しながらも暖かかった為かウトウトとしてしまった。


〈政宗!政宗! ま・さ・む・ね!〉


「はっ!!」


気が付けばいつの間にか陽射しが強くなっていた。

そう、僕の名は政宗。

歴史が好きな方でなくても知っているだろう、伊達政宗公の名前をいただき政宗が僕の名前。

東北の雄、生まれた時代がもう少し早かったら天下を取れたかもしれない戦国時代の超有名大名なんです。


「あれ、夢なのか現実なのか…」


ここは橋の下であるはず。

なのに川に橋があって対岸に誰かがたたずんでいる。

きれいな桜吹雪の中にある姿は何と神秘的な

光景であろうか。


「誰だろう、会ったことない人だけどどこかで見たことある気がする」


政宗はそう思うと対岸の人物がこちらを見て歩き始めた。

橋の半ばに差し掛かると


『君が来るのを予見していたものがいた。まさか本当に来るとは驚いた』


声の主は身長こそ小さいが声に独特の凄みと覇気があり、実際の身長よりも倍大きく見える。


『君が政宗君というのは来る前から知っていた。僕は萩藩士高杉晋作という』


は、萩藩士?それに高杉晋作?


頭が混乱して声も出せずにいるとあちらから


『これからしばらく君と勉強をしたい。その為には君の時間をもらうのだが依存はないか。』


「た、高杉晋作… 幕末の英雄だ…」


『どうやら依存はないようだな。ではそちらにゆくぞ』


「あ、ちょっと…!!」


橋を渡りきった途端、その光景は真っ白となり次に目に映ったのはさっきまでの橋の下の河原だった。


「やっぱし夢だ… 僕に高杉晋作がはなしかけてくるなんてあり得ないよ」


『あり得るからこの世は面白いのだ』


後ろからの声に驚いたのだが、驚いたのは声だけではない。

本当にそこにいるのだ…高杉晋作が。

あまりの出来事に呆然としていたが彼の一言で我に返る。


『男子たるもの肝が据わってなきゃ大事を成すことが出来んぞ。

今日より君の家でお世話になる。よろしく頼む』


こんな一方的なお願い普通は

❝困りますよ❞

となるのだが、何故だが断ることの出来ない不思議な雰囲気だった。


釣りに行って魚を釣る目的がとんでもない方と出会い…いや出会いなのか何なのか、イマイチ理解がついてきてないが、とにかく高杉晋作が家に来ることとなった。


4月も半ばに差し掛かかった春の出来事である。

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