【KAC20236】ナナツメノコ
武江成緒
前編
――なんか、鳴き声が聞こえるよな。
やっぱカラスなんかな、ありゃ。
街中じゃ暑いくらいだったけど、そんでも、こんな山のなかだと寒いぐらいだよな。
堪忍してほしいよなぁ。これ、フツーに走ったとしても、あっちに着くまえに、日、暮れんじゃねえの。
なあ、ムツ 。
やっぱさぁ、ちょっとぐらい遠回りしてもさぁ、やめた方が良かったじゃんかよ。
陽はささねぇしさぁ。薄暗いしさぁ。周りがこんな樹とかヤブだらけのとこなんて走ったことなかったよ、俺。
だいたいさぁ。ここ、フミ兄がさぁ……いや、この場所かどうかわかんねえけど、この山の中だったんじゃん。谷底でバイクだけつぶれてんのが見つかってさぁ。
いや、ンなこと言ってもしゃーねーかも知んねえけど。あれ、七年前な、あの年はミチさんもいなくなったんだよな。ゴールデンウィークに東京の大学から帰ってくるはずだったのに、こっちで新幹線から降りて、そのまんま行方不明。
まあ、ミチさんもひょっとしたらこの山のなか通ったんかも知らんけど。でもやっぱ、言ってもしゃーねーんかもな。ほら、俺らの向かってる
考えてみりゃさぁ、古栖ってかなりの田舎だったよな。
ほんと周りが山ばっかでさぁ。あのあたりだけ、袋小路? みたいになってるし。路線バスのバス停に行くにもけっこうかかるし。
遊び場所が寺の境内、なんて場所、あの頃ももうそんなになかったんじゃね?
でもまあ、みんなの ――― ヒトシさんに、フミ兄、ミチさん、ヨシさん、イツキにムツ に俺 ――― 全員の家からだいたい同じくらいの距離んとこにあったからさ、休みの日はどうしても、あそこで遊んでたんだよな。
……覚えてるか? あれ、俺らが小学四年だった年 ――― そうそう、オリンピックあった年だよ、うん、たしか中国で。
あの年、なんかどこの家も旅行とか行かなくて、毎日みんな、寺の裏の林で遊んでたんだよなあ。
夏にオリンピックがある、ってせいだったんかなあ。それともゴールデンウィークの最後の日だったからかなあ。あの日は朝から集まって、野球のボール投げまくってたよなあ。
いや、七人しかいなかったからさぁ。まともな野球なんてできねえし。
その代わり? 樹の高いとこへボール投げてさ。どんだけ高いとこへ投げられるか、みたいなんがかなり盛り上がってたよなぁ。
お前もあの日はやたら投げたがってさぁ、イツキとボール取り合いになってケンカしてたじゃん。
盛り上がってたわりに、いやにピリピリしてたよなあ。昼が近づいて腹へってたんかなあ。
……いや、思い出した。アレだよ。あの鳴き声。
カラスだよ。あの林、あの日はカラスがすっげぇうるさかった。カアカアどころじゃねえよな。ギャアギャアだったよ。ギャアギャア。
あんなにカラスの声がうるさかったん、あの日だけだったよなあ。後にも先にも、ってやつ。
えーと、あれ、誰だったかな……思い出せねえわ、どうしても。
とにかくさぁ、あの林でいちばんでっかかった樹、でっけえクスノキの高いとこへ向けて、思いっきりブン投げたんだよ。
なんか、ヘンな音したんだよな。
んで、上のほうでガサッて鳴って、ボールと一緒に落ちてきたんだ。
俺は見てすぐわかったよ。ああ、これ、巣だ、って。
木の枝とかからまって、なんかの絵でみたとおりの、鳥の巣だったんだ。
でも、それだけじゃなかったんだよ。
中に鳥がいた。
黒いけど、羽はあんま生えてなくて、そのくせ頭だけでっかい、いや、口もいやにでっかい、ヘンな鳥だった。
そいつらが、そう、そいつらが七羽。
巣の中で、死んでた。
ピクリともしねえんだもん。首とか羽根とか、どう見てもヘンな形に曲がってたし。
そいつら、目もでっかかったけど、薄目だけあけてさ、んで、そのまんま動かねえんだ。
見ただろ。お前も。うわ、うわ、って言ってたじゃん、あのとき。
投げたボール、クスノキの枝の上まで届いて、巣に当たったんだな。で、落ちてきた。
いや、ボールが当たったせいなんか、地面に落ちたせいなんか、んなもんわかんねえよ。どっちか知らなかったけどさ、でも。
カラスのヒナを、殺しちまった。七羽も。
ああ、あんなにカラスうるさかったんは、子供がいたからだったんだな、って、ゆっくりとそう考えたとたん。
ギャアアアアアアアア、って。
すっげぇ声だったわ。
みんな逃げ出したよな。フミ兄もミチさんも、ヒトシさんまでも、まっさおな顔して逃げてた。
ブチ切れたカラスの親に殺される、って、そんな勢いで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます