ex 幸せな夢
あの一件から一週間が経過した今、二年間日常を歩んだこの場所は色々な事が変わった。
烏丸や篠原は何かを隠している。
それを隠したままでいようとしてくれている。
あの裏で。
レイアが八尋と共にユーリ・ランベルを殺害しに行っていた裏で、一体何が有ったのかは分からない。
分からないが、自分達に黙っていると決めた何かが起きていた事は間違いないだろう。
とにかく、二人共これまで通りの生活を送ろうとしている。
送れている訳ではないが。
そしてこの場所で一番変わったのは間違いなく八尋だろう。
「いやだから何がだよ。なんかしらねえけど大丈夫だよ。俺は大丈夫」
そんな事を言うけれど。
無理して言っているけれど、八尋はもうボロボロだ。
烏丸や篠原も踏み込まないが、それはきっと把握している。
レイアも……自分達に気付かれないように睡眠薬を服用している事も知っている。
……そう、志条八尋は壊れている。
善良な人間を殺害するという選択を選んだ事実が、彼を支える尊厳を粉砕した。
レイアが此処に居る事と引き換えに、壊れる事を選んだ。
ユーリにも言ったが、きっともう元には戻らない。
だけど……だけど思うのだ。
レイアに対して虚勢を張りながら、何事も無かったように振る舞う八尋に対して思う。
完璧には戻らないかもしれない。それでもほんの少しでも……八尋を元気にしてあげたいと。
だから、考える。
どうすれば自分を救ってくれたヒーローを救えるのかと。
……自身が憧れ背を追い恋をした。
レイア自身にとっての最高のヒーローをどうすれば救えるのかと。
自身の目の前にある問題を隅に追いやってでも、そんな事を考え続ける。
だってそうだ。
もう自分は……志条八尋の為に生きると決めたのだから。
志条八尋が救ってくれたレイアという少女が、本来夢見てはいけない幸せな夢は、きっとそこにあるのだから。
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