3 少なくとも、表面上は
その後、八尋はレイアと共に再びバイクに股がりその場を後にした。
だけどまっすぐ事務所に帰る訳でもない。
各々の自宅に帰る訳でもない。
この日はもう見知った誰かと顔を会わせたくはなくて。
まともに誰かと会話できる自信がなくて。
そこから逃げるように近隣で宿を一拍取った。
後々考えてみても一人で眠りに付けるような精神状態ではなかったから、互いにそれを感じた結果だったのかもしれない。
それから一夜明け、事務所へ顔を出した。
事務所では篠原が八尋達の帰りを待っていて、無事であった事に対して泣かれた。
篠原は八尋が何かをしようとしていた事だけを感じ取り、そこから完全に蚊帳の外。
事が終った安否確認も戦いの中で二人共スマホが壊れてしまい行えず、宿で電話を借りるという選択も、それこそまともに話ができる気がしなくてやっていなかった。
流石に悪い事をしたと思う。
「とりあえず……コーヒーでも淹れますか?」
だけどそう言ってキッチンに向かっていった篠原は、細かい事を何も聞かなかった。
聞かないでいてくれたのかもしれない。
そして自分達から少し遅れて烏丸が帰ってきた。
「すまない……僕の拘束魔術で縛ったんだ。そこから位置情報を特定できる筈だったんだが……あの転移魔術の様に僕の知らない形式の魔術で行方をくらましたみたいだ……肝心な時に役に立たなくてすまない」
烏丸は今朝までずっとユーリを探していたらしい。
レイアに見付けられて烏丸に見付けられないのかとも思ったが、その辺は同じ世界出身のレイアの方が探しやすかったのかもしれない。
……それかそもそも、自分達が危惧していた烏丸が敵になるかもしれないという考えが、取り越し苦労だったのか。
それは分からない。
そして烏丸も八尋達に心配の言葉をかけはしてもそこ止まりで。昨日烏丸と別れて何が有ったかや、レイアの記憶の詳細までは踏み込まない。
きっと烏丸も、踏み込まないでくれている。
とにかくそんな風に、この二人にはあの場での戦いの事を把握されていない。
把握していないように見せているだけかもしれないが、レイアがそんな指摘を八尋にしてこなかったから、きっとそういう事なのだろう。
だからこそ勝ち取った日常が戻ってきた。
……少なくとも表面上は。
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