終章 憧れの果て

1 本物VS紛い物

 志条八尋にとって、ユーリ・ランベルという少年に対して向けるマイナス的な感情は無い。

 寧ろ、本当に感謝している。


 今回は相容れなかっただけで、真剣にレイアの事を考えて助けようとしてくれていたのは伝わってくるから。

 そこまでレイアの事を考えてくれる人がいるという事実は本当に嬉しくて仕方がないから。


 そして自分が殺されるかもしれない状況で、レイアを殺さないでくれた。

 レイアを人殺しにもさせないでくれた。


「それが言える奴を人殺しになんてさせてたまるかァッ!」


 これから自分を殺そうとする相手にもそんな事を言ってくれた。

 ……これが本物なのだろうと思う。

 本物のヒーローなんだと思う。


 それをこの手で殺すのだ。


 志条八尋という人間は、その罪を一生掛けて償わなければならないだろう。

 そして、ユーリは叫び散らしながら飛びかかってくる。

 恐ろしい程の速度。

 こちらの最高速の頭一つ上を行かれている。

 そうやって正しく認識できる程度の……そんな程度の力しか出せなくなるまでボロボロになってでも、まだ戦ってくれようとしてくれている。


 そう、そんな程度の力だ。


「……ッ!?」


 振るわれた拳を辛うじてかわし、カウンターを合わせるように右手を伸ばす。

 そして……人を殺せるだけの一撃が、炸裂した。

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