2 二年経って
「無事か八尋!」
「あー大丈夫大丈夫。この通り無事」
「いやあまり無事そうに見えないんだが!?」
助け出した少女と共に八尋はレイアと合流した訳だが、実際レイアが言う通り全く無事ではない。
銃弾は一発掠るし、ナイフの刃が肉を抉っている。
加えてとっておきの戦法のせいで自傷も酷い事になっていた。
ナイフを手にした魔術師相手に使ったブーストと呼んでいる八尋だけが使える特殊技能。
この二年間の中で培った体内に溢れる膨大な魔力を使って擬似的に強化魔術のような作用を肉体にもたらす技能は、肉体への付加が非常に大きい。
長時間使えば疲労骨折を起こすし短期間でも体が軋む諸刃の剣だ。
これだけ苦しい思いをして使っているのに、レイアがノーリスクで使える強化魔術よりも遥かに出力が劣るのだから、改めて自分は腰巾着だと呼ばれても仕方が無い人間だなぁと思う。
「レイアは……予想通り大丈夫だな」
「いや、そうでもないぞ。ほら見ろ指先を少し切ってしまった」
「この前の調理包丁と魔術結社が同じ殺傷能力かよ……まあ良かった。この位なら速攻だな」
言いながらレイアの手を取ると指先が超高速で治癒を始め、ものの数秒程で完治する。
「な、治った……」
「すげえだろこのお姉ちゃん。ちなみに向こうで暴れてる仲間っていうのがコイツ。いやーすげえんだ。一人で何十人もぶっとばしちまうからさ」
「いやいや、私なんてまだまだ……」
謙遜するようにそう言うが、レイアが胸を張れなければ殆ど誰も張れない。
予想通りこの二年でレイアは急速に強くなった。
世界最強の魔術師はと聞かれれば変わらず烏丸信二と答える魔術師が大半なのだろうけど、最強格の魔術師を十人挙げろと聞かれれば多くの魔術師がレイアの名前を挙げるだろう。
だから今日の相手にもレイアの存在は強く認知されていて、その隣で良く行動を共にしている八尋も腰巾着として知れ渡っていたのだろう。
腰巾着。
腰巾着。
まだまだ良い感じのヒーローには程遠い。
そしてレイアがフォローを入れるように言う。
「このお兄ちゃんだって凄いんだぞ。八尋はな、どれだけ相手が強くて、どれだけ自分がボロボロになっても誰かの為にいつだって頑張れるんだ。本当にかっこいい奴なんだよ」
「いや、お前に言われると霞むっていうか……」
「うん、かっこよかった……」
「……だそうだ。いつも言っているがもっと胸を張れ。お前はいつだってずっと凄い奴なんだ」
「……ありがと」
二年前に烏丸に言われたように、近くで物凄い活躍を見せるレイアに対して劣等感のようなものは抱くし、その度に自分の事がとても小さく惨めな存在に思えてくる。
だから流石にレイアの前で自分は凄いと胸を張るなんて事はできない。
まだ自分が良い感じのヒーローになれているとは思わない。
だけどこんな自分をレイアは肯定してくれていて、助ける事ができた相手からはありがとうと感謝の言葉を向けてくれる。
それを受け止めていると、胸は張れないにしても、少し位は理想に近づけているかもしれないと、自惚れかもしれないけどそう思う事ができるようになった。
生きていても良いのかもしれないとも、ある程度前向きに考えられるようにもなってきた。
こうなるまで支えてくれた烏丸や篠原。そしてレイアには感謝しかない。
……特にレイアには本当に感謝だ。レイアがいなければ最初の一歩を踏み出す事もできなかった。これまで歩み続ける事ができたのもレイアの存在が大きい。
本当に自分はレイアという女の子に助けられ続けている。
だけど……果たして自分は助けてもらえた分だけ、何かを返す事ができているだろうか?
少なくともあれから二年経過したが、レイアの記憶は戻っていない。
あの事件は何も解決していない。
その点について、自分はなんの力にもなれていない。
今日に至るまで何も。
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