彼女がいない異世界に転生しても何の意味もない〜彼女は栄養士知識で人々を救う〜
彩歌
プロローグ①
「ーー美味しいものってさ、世の中に溢れてるじゃない?でもさ、身体に良いかっていうとそうでもないでしょ?私はね、美味しくて身体にも良いものを作れるようになりたいんだ。それが私の夢!」
どう?と彼女は、
「良いじゃん。サトらしくて」
「もー、私らしいってどういうことよ、サク」
「褒めてるんだけどな、これでも」
ぷうと膨れるサトの頬を指でツンと突く。
「で、具体的には何になるの?」
「栄養士!」
「あー、あれか。給食のおばちゃん」
「むむ。違うと言いたいけど、イメージは大体あってる!決めたからには即行動!ってわけで栄養士のなり方を調べてきたんだよ」
「で、学力が足りなくて俺のところにやってきたというわけか」
ものすごく悔しそうにサトは俺の言葉に頷いた。
「勉強を教えてください、
「ったく、サトは都合のいいときだけフルネームで呼ぶんだから。……いくつか候補の学校あるけど、どこに行きたいの?」
ノートに書かれた学校名を細いサトの指が指す。
それはそこそこ偏差値のいる大学で、なるほどと俺は頷いた。確かに今のままではサトには厳しいかもしれない。誤解のないように言っておくが、別にサトは頭が悪い訳では無い。少しばかり勉強の要領が悪いだけで、伸び代はたんとある。ずっと隣で見てきたんだから間違いない。なんでずっと隣で見てきたって?それはサトが幼馴染で、俺がずっと片思いをしている相手だからだ。
「あ、もうこんな時間!行かなきゃ!バイバイ、サク!」
今日は金曜日だ。俺は金曜日が大嫌いだった。
だって金曜日はサトがあいつの元に行く日だったから。
あいつが普通の人間ならそこまで俺は毛嫌いはしなかった。いや、失礼した。嘘だ。絶対に嫉妬するに決まっている。
サトの交際相手は既婚者だった。そう。サトは不倫をしているのだ。
ーーなぁ、サト。俺じゃダメなの?既婚者なんかやめとけよ。未来はないし、下手したら奥さんに訴えられるし、ほぼ間違いなく遊びだぞ?
ーー……わかってるよ、サク。未来がなくても、訴えられても、遊びでも、私はあの人が好き。サクのことは嫌いじゃないし、サクを好きになれたら良いのはわかってる。でも、サクじゃダメなんだよ。私、バカでごめんね。
本当にサトはバカだ。
わかってやっているんだから尚更質が悪い。
サトを解放したくて、一度だけ相手に会ったことがある。ふたりの関係をバラすと脅したことがあった。あいつは冷静だった。バレるとどれだけサトに不利益かを俺相手に語ってみせた。サトの未来は俺には壊せなかった。俺は狡い大人に負けた。
このことをずっと後悔することになるとは俺は思いもしていなかった。
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