第20話
「この先に居たんだな?」
「はい。恐らくはライトニングダイルの変異種だと思われます。グリン隊長」
これで最近需要の多いライトニングダイルの角の代わりになれば良いんだけど。
ライトニングダイルはこの国では生息していない為、ノーラン商会が探索者ギルドに依頼してこの国に取り寄せて貰っている。
この素材はそこまで高い訳ではないが、量産出来るほど安くはないらしい。
それにダクターがモーターの設計図をノーラン商会に販売した事で、更に需要が上がるとの事だった。
「お、居たな。全員戦闘体制、奴等の角と噛みつきと尻尾の薙払いには気を付けろ」
「「了解」」
俺は真っ直ぐ向かってくるモンスターに正面から突っ込む。そして相手が此方の正面に顔が来たときに操作レバーのスイッチを押した。
するとエアバイクの正面から鉄の矢が放たれる。
放たれた矢はモンスターの目に深々と刺さった。
「先ずは一匹」
操作レバーの引き金を引くと、エアバイクが飛び上がりモンスターの上を通りすぎる。
着地位置の近くに別のモンスターが待ち構えている。体制から恐らく、尻尾での薙払いだな。
モンスターが回転しながら尻尾をぶつけて来る。それを引き金を一瞬引いて落下タイミングをズラして通り過ぎながら薙刀で斬りつける。
この薙刀は俺専用に作られていて、長い持ち手の部分の芯にはミスリルが使われていて、それを木材で覆い、丈夫でしなるように作られている。そして全員の手にはスライム材で作られたオープンフィンガーグローブが装着されている。
これは滑り止めと衝撃吸収の為のグローブだ。
そして先端に着いてる刃は魔鉄製で、太く、長く、丈夫に出来ている。重さは相当だが、扱えれば威力は凄い。
旋回と飛翔を駆使しながらモンスターを薙払っていく。
「粗方片付いたか。副長、怪我人はいるか?」
「初戦闘の2名が尻尾での薙払いを受けましたが、打撲程度で済んだようです」
「そうか。初戦闘でその位で済んだなら上出来だ。後方の浮遊荷台部隊に知らせと、仕留めたモンスターの素材の剥ぎ取りと、状態の良さそうな奴はそのまま回収だ」
「了解」
この素材が使えればダクターも喜ぶだろう。
やはり森の中でのエアバイクでの戦闘はかなり有利だな。地形に左右されない立体的な動きが出来る。
それに万一の場合でも、浮遊してるお陰で衝撃の緩和も出来る。
「回収完了しました」
「よし、今日はそのまま撤収だ」
「了解」
そう言えば、皆最初会った時には、11歳って言ったら相当驚いてたな。
俺がダクターから教わった武術や体力トレーニングを教えた時は誰も着いて来れなかったな。手加減しろって言われたっけ。
だが今では全員着いて来れるようになったし、警備班の皆もそこそこ強くなった。
しかし。
「もっと強い奴と戦ってみたいな」
「隊長と渡り合えるモンスターだと他の皆が危険ですよ」
「別にモンスターじゃなくても良いんだけどな。ダクターに騎士国の騎士との模擬戦も却下されたしな」
「それはそうですよ。グリン隊長の実力が知られれば厄介事に成りそうですからね。それにまだ12歳ですからね」
「俺はまだまだ強くなるさ。身長もまだまだ伸びるだろうしな」
「12歳で170センチありますから、将来2メートル超えそうですね」
「それはダクターにも言われたな。その内ミノタウロスを素手で倒せる位デカく成りたいな」
「そ、そうですか。隊長なら倒せるようになるかもしれないですね」
ーーーーーーーーーーーーー
「角と金属素材を合成させて、電圧の違う小さなバッテリーをこんな感じで組み合わせる事で、スイッチを切り替えるだけでゴーレムコアが無くてもモーターの回転数を何段階かに調節出来ると思う」
「確かにこのサイズなら色んな物に使えそうだね。それにスライム材が役にたつとは驚きだね。これで漏電や放電のリスクを回避出来そうだよ」
「とりあえず、この作り方でこの図の用に作れば色々応用出来ると思うよ」
「ありがとう。私も魔道具職人として長いが、これ程勉強になった事はないよ」
「いえいえ。僕はこう言う量産作業は苦手なので。ノーラン商会が代わりに普及させてくれれば、僕の所には依頼が来なくて助かります」
この人はノーラン商会で雇われた魔道具職人だ。僕が売ったモーター等の設計図を使った商品を開発、製造してくれる人だ。
今日はモーターの回転数のコントロールを、ゴーレムコア無しで作る方法を聞きに来たようだ。
「他に困った事は?」
「そうですね。後はライトニングダイルの角の入手ですかね。国外から大量に仕入れるのは難しいようで、出来れば先日から入手出来るようになったライトニングダイルの変異種の角を購入させていただきたい」
「分かりました。勿論卸せる数に限りがありますが、出来るだけの協力はしましょう。その代わりと言っては何ですが、未加工の魔石を相場が上がり過ぎないように、出来るだけ大量に集めて欲しいですね。その代わりに、此方からは加工済みの魔石を安く提供します」
「そうですか。では一度商会に戻って商会長に話してみます」
「ありがとう。それから頼んでいた道の整備はどのぐらい進んでいるか分かる?」
「今の所半分は完了しているみたいですね。お陰でこの国は今好景気に成りそうですよ。まさかセメントが砂と砂利を混ぜるだけであれほどの強度になるとは。今まで接合材としてだけ使っていたのが勿体無いですね」
「それは良かった。道が整備されれば魔道車が普及した時の恩恵も大きくなるし、最近余り気味だったお金の使い道にもなったしね。石灰採掘もこれからもっと大規模になるよ」
この国の新たな資源だ。元々色々な所で大理石が取れると聞いた時から、大規模な石灰石の採掘場が作れると思っていた。これからコンクリートの強度を高めて行けば、高層建築も可能になるし、外壁の増築も楽になるだろう。
宰相様にも余り貯めすぎないように言われたし、ある程度この国の金貨が増えるまでは他にも使い道を考えないとな。
それにしても、まさか国が高額なエアバイクを買ってくれるとは思わなかったな。魔石も工房から大量に定期的に購入する契約だし、暫くは石灰採掘と道路整備にお金を注ぎ込もう。
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