KAC第6回『アンラッキー7』

綾野祐介

第6話 アンラッキー7

 どう考えても仕組みが判らない。梨沙子と圭子、誰だか判らない男の三人が居なくなった。ああ、最初に居なくなったのはあの店主だ。


 その場に開かれていた『無名祭祀書』と呼ばれる本が今、俺の部屋にある。そして熊のぬいぐるみが三体。本屋を入れると全部で四体か。


 仕組みは全く判らなかったが、本の傍で命を落としたり瀕死の重傷になった人はぬいぐるみになるようだ。これはもしかしたら完全犯罪になるのか?遺体が無いと、そもそも殺人なのか失踪なのか判らない。今の所四人は全て失踪扱いだった。それはそうだろう、遺体はどこにもないのだ。


 TVはWBCの話題で持ち切りだった。日常からかけ離れた出来事の中、俺は日常を取り戻すために普通に生活していた。毎日TVでのWBC観戦は欠かせない。


 視界にぬいぐるみが入った。そんな場所には置いていなかったはずだ。


 ピンポーン。


 モニターで確認すると友人の坂口智也だった。直ぐにドアを開ける。


「圭子が居なくなったの、知ってるよな?」


「まあな。」


「まあな、じゃない。ちゃんと探したのか?」


「心当たりは探したさ。でも見つからないんだ。」


「他の女と歩いているところを見た奴がいる。」


「何が言いたい?」


 智也の顔は真剣だった。


「まさか圭子をどうにかしたんじゃないだろうな。」


「馬鹿言うな、そんな訳ないだろう。とりあえず落ち着いて話そう。そうだ、今丁度WBCをやっているから見ろよ、野球大好きだったろ。」


 智也はTVを見始めた。気にはなるのだ。


「おっ、ラッキー7の攻撃だ、期待できるぜ。」

 

 俺は適当なことを言って智也の注意をTVに向けさせた。こいつもぬいぐるみになってもらおう。


 飲み物を貰うぞ、と智也が台所に立った。


「ラッキー7の裏には相手の攻撃があるんだ、知らなかったのか?」


 台所から戻った智也の手にはほとんど使ったことがない包丁が握られていた。まさにアンラッキー7だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

KAC第6回『アンラッキー7』 綾野祐介 @yusuke_ayano

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ