関さんを守る約束
「先生、驚きすぎです。関さんの言う通り、これが事実なので……教室に戻っていいですか」
俺は冷静を保ち、担任の魚谷に聞いた。
すると魚谷は声を荒げた。
「許さん、許さん、許さんぞおおおおおお!!」
「「ええッ!?」」
突然の発狂に引く俺と関さん。
いったい、何事だよ。
そもそも、この担任はどうしてこう執拗に俺と関さんの関係を認めたがらないんだ。
「魚谷先生、叫びすぎです!」
さすがの関さんも先生をなだめる方向に。
てか、これはいくらなんでもマズイって。
顔を真っ赤にして俺の方へ向かってくる魚谷。目がマジでやべぇって!
さすがの事態に隣のクラスの先生がすっとんできた。
「魚谷先生、なにをしているんですか!!」「魚谷先生、ちょっと抑えて! 生徒たちが見ていますよ!」「やっぱりですか……」
ん、やっぱり?
二年C組の松下先生がなにか納得していた。気になった俺は、松下先生に問い合わせた。
「あの、松下先生。やっぱりって?」
「ああ……、二年A組の有馬くんですね。ええ、実は魚谷先生は、有名人である関さんのことが好きなんだそうです」
「え……」
「少し前に恋愛相談を受けましてね。生徒に手を出すなと注意したつもりだったんですが……諦めていないようですね」
呆れた表情で松下先生は溜息を吐いた。
まてまて。
魚谷が関さんに恋してるっていうのか!?
やばいだろ、それ。
事実を知って俺も関さんもドン引き。
「あ、あの……松下先生」
「なんですか、関さん」
「魚谷先生をなんとかしてもらえませんか! これでは、わたし……怖くて」
「分かっています。私も魚谷先生のことは危機感を抱いておりましてね、校長先生に相談したところです。……あ、校長先生!」
振り向くと、そこにはツルツルのハゲ頭の校長がいた。険しい表情で魚谷を見下ろす。
「何事かね、魚谷先生」
「こ……校長先生! いえ、これはその……」
「この馬鹿者! 魚谷先生、君はキツく言ったはずだ。女生徒に手を出すなと!!」
ちょ、待て。
その言い方だと、他の生徒にも手を出している口ぶりだぞ。
魚谷ってそうだったのか……。
なら、俺は関さんを守る為にも!
「校長先生、俺は二年A組の有馬 純といいます」
「む? 有馬?」
「ええ、俺と関さんの関係性を疑われまして。でも、俺と関さんは許嫁で、現在は真面目に付き合っているんです。なんの落ち度もありません」
「分かっている。君と関さんのことは両親から伺っているよ」
「「はいっ!?」」
またも俺も関さんも驚いた。
まてまてまて!!
さっきから驚きの連続しかねェ!!
魚谷といい、校長の発言といい……いったい、全体どうしちゃったんだ! ……いったい、誰のてのひらで踊らされているんだ俺たちは。
って、親父か……ふざけやがって。
いやけど、今回ばかりは助かった。
「とにかく、魚谷先生。言い訳は校長室で聞く。いいかね」
「…………は、はい……」
青ざめ、ションボリする魚谷先生は、校長先生に連行されていった。……あんな真面目だった魚谷に裏の顔があったとはな。
* * *
教室へ戻った。
松下先生の指示により『自習』となった。
魚谷は、もしかすると二年A組の担任を外れるかもしれないということになった。マジかよ。
しばらくは松下先生が代理で請け負うことになるようだ。
「――というわけです。しばらくは各自で勉強を行うようにしてください」
教室を出ていく松下先生。
直後、クラス内は騒然となって魚谷のことで話題持ち切り。当然、隣の席の関さんも、そのことを話題にあげた。
「ねえ、有馬くん……」
「ああ……まさかの事件だな」
「わたしが悪いのかな」
「いや、魚谷が悪いのさ。聞いたところによれば、魚谷は今まで何十人と女生徒に手を出していたとか。ストーカー行為に発展することもしばしばあったようだぞ」
「うわ……最低」
酷く嫌悪する関さん。
俺でさえ戦慄しているからな。狙われていた関さんはもっと怖いし、精神的な苦痛も計り知れないだろう。俺が守っていかないとな。
「関さん、俺がいるから、いつでも頼ってくれ」
「ありがと、有馬くん。その……すっごく頼りにしてる」
屈託のない笑みとは、まさにこのこと。
本当に関さんの表情は心を癒してくれる。
ならば、俺はその笑顔を絶やさないように全力で守護していかないとな。守るからと約束して指切りした。関さんは嬉しそうに頬を赤らめた。
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