第20話 親友

 墓地の陽気はいつにも増して暖かい。死体の腐敗の調子が良いのだ。墓標は白いペンキで塗られた木の棒をただ刺しておくだけ。墓碑銘エピタフなんて贅沢なものは滅多に無いが、ちらほらと書かれている決まってこういうことが書かれている。


『安らかに眠れよmxxher fxxker』


 紫色の土は腐敗の証、化学薬品や食品添加物までなんでもお構いなしに分解してしまう細菌が今日も元気に紫色の腐敗をすすめている。


 そんな土を蹴り上げて、一台のトラックが墓標をすり抜けるように疾走する。


「紫色の煙が立っているよ」


 徒然とぜんは、その光景を美しいと思った。


「そういえば思い出したんだけど、僕はこの墓地から離れちゃいけないって言われていたんだ」


 徒然は、トラックの助手席でぽつりとつぶやいた。


「知らなかったです」


 運転席でポツリとダレル・バークレーが返事をした。決して男前とは言えないデニムのパンツに上裸でフード付きの丈が長いコートを着たモヒカンの男のことを少し不思議な人なんだと徒然は思うことにしていた。


「信じられないよ、君が最強のチェーンソー使いだなんて」

「思ったよりも男前でしたか?」

「オーラとかが無くて」


 「そうですか……」と少し落ち込んでしまったダレルを見て、徒然は妙な親近感を抱いた。


「チエさんとはお知り合いなのですか」


 荒野を駆けるトラックの中から月の青白い光が見えている。紫色の地面に一層映えるようだった。そんな光景を眺めながら、徒然は「親友なんです」と答えた。

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フライパンの上の子人 白犬狼豺 @takeda-0

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