2-1
たけやんがその女の子をすずめ荘に連れてきたのは、わたしと美都がようやくミスコンの企画運営に慣れ始めた頃だった。九月になってもまだ蒸し暑い日が続き、これは残暑というより本暑やろ、と剣崎が存在しない言葉を創り出していた頃だ。
ふんわりとゆるくカールさせた髪に綺麗に弧を描いた眉毛、少し目尻の下がった丸い目に、ちょこんとした小さな口。ネイビーのワンピースにパステルカラーのカーディガンを羽織っている。ファッション雑誌からそのまま出てきたのかと思うセンスの良さである。かわいい。小動物的なかわいさ。かわいいが、それだけじゃない、どこかで見たことがある気がする。戸惑う面々に、たけやんが照れ臭そうに紹介する。
「こちら、教育学部二回生の
こんにちは、と彼女は愛らしい仕草でぺこりと頭を下げた。こちらも戸惑いながらも会釈を返す。少し考えて、わたしは、あ、と小さな声を出した。
「もしかして…ミスコン出場されます?」
はい、と湊さんは小さな声で答えて恐縮したように微笑んだ。企画部の部室に貼り出してある出場候補者ポスターそのままの、儚げな微笑だった。その隣でたけやんがにまにまとやにさがっている。華やかさで言えば、二人の間には月とスッポン、提灯に釣り鐘、駿河の富士と一里塚ほどの差がある。一体どういう関係なんだ、と部屋にいた全員が息を飲んだ。
「えっと、二人はまさか…」
美都が目を泳がせながら言いかける。まさか、の後になんという言葉が続くのかと息を飲んだが、たけやんが「マクロの授業で一緒になってん」と言ったので一同なんだか分からないがほっとした。
「ほんでミスコンの出場者がこんな場所になんの用?」
息を吹き返した剣崎がいつもの調子を取り戻して横柄に問いかけた。
えっと、と口ごもる湊さんをかばうようにたけやんが「なんか、ミスコンのことで相談したいことがあるんやって」と口にした。
いやな予感。
出場者が企画運営の人間と相談したいことなんて、出場するのを止めたいとか、あるいは自分を優遇して欲しいとか、不穏な内容であることは想像がつく。参ったな、と美都と視線を交わしたのに気づいたのか、湊さんが違うんです、と言ってかわいらしく顔の前で両手を振った。
「えっと、便宜を図ってほしいとかそういうことは全然なくて」
言い淀んで視線を彷徨わせていたが、ようやく意を決したように顔を上げて一息に言った。
「ミスコンを、失敗させてほしいんです」
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