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「で、お前らは何すんの?」


 我が物顔でベッドに寝転んだ剣崎が雑誌を広げたまま興味なさそうに問いかけた。興味がないなら聞かなければいいのに、ここすずめ荘で起きる事には全て首を突っ込まないと気が済まないのだろう。


「えっとね、イベントを盛り上げるアイディアを出したり、広告を打ったり、会場の準備とか投票のプロセスを考えたりとか、なんか色々あったよね」


 ね、とわたしは美都に相槌を求めた。


「そうそう、思ったよりボランティアの人数集まらんかったから、結構忙しくなりそうよね。まあ折角だから楽しんでやりたいね」


 ふうん、と剣崎が気のない相槌を打つ。台所では玲人君が料理をしていて、食欲をそそる香ばしい匂いが漂っていた。


「玲人、今日の晩飯なに?」


 剣崎の問いに豚汁、とそっけなく答えて玲人君はこちらを振り返りもせずに片手で器用に鍋の中をかき混ぜた。使っていない方の手にはなにやら難し気な工学系の本を持っていて、イケメンな上に料理の合間に勉強も出来ちゃう俺、という雰囲気をむんむんと醸し出している。


 玲人君は自他ともに認める完璧人間なのだけれど、彼に一つ弱点があるとすればそれは彼が稀代のナルシストだということだと思う。本人がそれを認めることは決してないけれど。イケメンな上に勉強も料理も運動も器用にこなせちゃうけど自分の外見には別にこだわってはないですよ、というところまでひっくるめて、玲人君なりの美学なのだろう。とてもややこしい。そのややこしさがふとした拍子に滲み出てしまうのか、玲人君はそのスペックに反してそんなにモテない。


 もちろん、外見に惹かれて寄ってくる女子は沢山いるのだけれど、皆押し寄せては引いていくさざ波のごとき自然さで最終的には居なくなる。すずめ荘に集まる面々は、それを眺めては勿体ないなとため息をつき、反面ちょっとホッともしている。玲人君に彼女でもできようものならすぐにこの部屋を追い出されてしまうことが分かっているからである。

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