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「確かになー。なんかしたい、っていう時に、自分が主人公である必要はないもんね。頑張ってる人をサポートするのだって、立派になんかやってることになるよね?」
「それはそうだけども、それにしてもミスコンなんて、わたしたちから最も縁遠いイベントじゃない?」
まあ、見といてよ、と言って小百合に持たされたちらしをすずめ荘に持ち込んで、美都と一緒にじっくりと眺めた。手に取ってハンカチでも振るみたいにひらひらと空中を泳がせてみる。原色の赤と黄色を背景に、やっぱり原色の青い文字が踊っている。もうちょっとなんかなかったんかね、このデザイン。
「やっぱりわたしたち向きではないんじゃないかねえ」
弱気な声が出てしまう。なんといっても、キャンパスで一番見目麗しい人間を選ぶコンテストなのだ。いくら内外の大学の中でもダサさの頂点を極める我が大学と言えども、少数ながら見た目の良い人たちというのは存在するし、そういう人たちとわたしたちの間にはいつも見えない壁があった。
わたしたちが元田中の怪しいインド人が経営するカレー屋でナンを喰らう間に彼女たちは木屋町のおしゃれなバーでデートしていただろうし、わたしたちがイズミヤの1000円均一のワンピースを買おうかどうしようか迷っている間に彼女たちは四条のデパートで一枚五千円のブランド物のブラウスを買っていたに違いない。間違いなく、そこには越えられない壁があった。
「そんな人たちの周りで三か月も過ごしたら、わたしすごく卑屈になっちゃうかも。こんな世界見たくなかった!って苦悩しちゃうかもしれない」
「そこは、でもボランティアの人たちは普通の人やろ?」
「まあね」
「とりあえず、説明会だけ行ってみる?」
美都が乗り気なのが意外だった。
「美都はでも、たまには自分が主人公になりたいとか言ってなかった?裏方でいいの?」
「そりゃ主人公気分をたまには味わいたいけどさ。でも現実的にはそんな簡単に行く訳ないって分かってるし、なにもしなかったらまたなにもしないまま一年過ぎちゃうからね」
耳に痛いお言葉である。このままだと四年間ある大学生活をずっとなにかしたいなあとぼやきながら過ごすことになってしまう。
「だからさ、まずは目の前に降ってきたものからやってみてもいいんちゃうかなって私は思う。合わなかったらやめたらいいし」
美都は力強く言い募った。
「あたしらもたまには華やかな世界に触れてみてもいいやん。いっつも元田中のすずめ荘でくすぶってばかりじゃなくてさ」
憤然と言い切ったところを見ると、のんびりと過ごしているように見えて実のところ美都にも色々と思うところがあったのかもしれない。
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