現世の羅針番

水月 尚花

第1話 鬼門が開く



きぼうノ宮地下街六番出口の扉が、あなた様のために開かれました。


この扉は、あなた様の前にのみ姿を現します。あなた様以外の人間は、扉の向こうへ入ることが出来ませんので、必ずお一人でお越しください。


扉を見つけた瞬間から、電子機器はご使用いただけなくなります。この扉が見えなくなる位置まで離れていただきますと、通常通りご使用いただけるようになりますので、ご安心ください。


扉を開けていただくと、さらに地下へと繋がる階段がございます。その階段を降った先に、左右に六つずつ扉があります。左側の六番目の扉があなた様の扉です。扉を開ける前に、ドアノブに埋め込まれた羅針盤が動いていることを確認してください。


そちらに、ご依頼いただきました呪いの代行を請け負う者が待機しております。


当日はあなた様とお相手様の毛髪や爪など身体の一部、写真もしくは私物をご持参ください。ご依頼料は即金払いのみになりますので¥3,000,000-のご用意もお願いいたします。



こちらへの返信は不可能になっております。

このメールは届いてから一週間が経ちましたら、すべてのメモリーから消去され、それと同時に扉も閉口します。扉は午後五時から午後七時の間のみ、開口しています。扉が開口している期間中は、あなた様のお好きな日にお越しいただいても、支障はありません。



最善を尽くせるよう場を整え、あなた様のお越しをお待ちしております。



それでは、どうぞお気をつけて。


                          きぼうの扉 管理人



 

 




 法で裁けない悪人を裁いてくれると、SNSでたびたび話題になっている『きぼうの扉』と言う名のアカウントがある。ダイレクトメッセージは解放されており、誰でも依頼することが出来るようになっている。しかし、依頼を引き受けてもらえるのは、ごくわずかな一部の依頼者のみ。その選定基準などは一切、明かされていない。

 呪い返しを受けない形で呪いの代行を行ってくれる代わりに、法外な依頼料がかかる。内容により依頼料の違いはあれど、法を逸脱した金額であることに変わりはない。それでも依頼者は後を絶たない。


 

 そんな非常に狭き門を突破した青年が一人、六番出口の壁面に現れた扉の前に立っていた。

 





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