第64話 それでもなお、加入と困惑、そして買占め!?



「――え゛っ。生存者サバイバーじゃない?」



 ソルアとアトリに関する勘違いを正す。

 先ず【パーティー】を組むことができる生存者ではないと伝えた。



「ああ。だから、正確には久代さん、来宮さん、そして俺の3人でパーティーを組んでいる」


「そ、そうなんですか……。いや、それなら納得――」



 そこから先、どこまで話そうかと考える。

 だが俺が言葉を続ける前に、水間さんがふと気づいたというように視線を移した。



「――あっ。妖精さん。それに、モンスターも使役してる、んですよね?」



 それは、俺へと確認するため以外にも。

 自分の中で浮かんだ考えを整理をするため言葉にしたというようにも聞こえた。



「そっか……――つまりソルアお姉さんもアトリお姉さんも。妖精さんたちと同じ枠、つまり地球人プレイヤーじゃないってことですね?」



 ……。

 


「――水間さん、学校の成績云々ってことじゃなく。地頭っていうか、勘が良いとかってよく言われない?」


「えっ? ……うーんと。あたし、恥ずかしながら、友人がそんなにいないので。誰かにそういう言葉をかけてもらえたことはないですね」



 水間さんは友達が少ないことを恥じるように、自虐的に笑って頭をかいた。



「フフッ、遥さんのこと言えないや。あたしも、お兄さんが初めての相手、ってことになりそうです」



 それはやはり交友関係についての話題を避けたいため、あえて自嘲じちょう的に振る舞ってみせたように感じた。



 ……水間さんも、久代さんや来宮さんくらい美少女力があって、しかも周りへ気遣える子なんだ。

 

 中学生ってことは、男子も異性に興味が出てくる頃である。

 こんな可愛い子、放っとかれないと思うけどなぁ……。



「……まあそれは良いとして――ソルアとアトリの件についてはその通り。話が早くて助かるよ」



 そして答え合わせが済んでも、水間さんの態度が変わったりすることはなかった。



「そうですか。じゃあ、お兄さんのお助けキャラ的な立ち位置だと理解しておけば大丈夫ですね? で――」



 もうソルアとアトリの問題については話が済んだというように、水間さんは話題を元に戻す。

 呑み込みが早いというか、肝が据わっているというか……。



 とにかく、ファムやフォンの存在が、水間さんの理解に役立ってくれたのは確かだった。


 明らかに地球人ではない妖精やモンスターが、生存者に使役されている。

 なら、より人に近い見た目をしたソルアやアトリが、生存者の手助けをしていても理解はしやすいということだろう。



「当初の想定とは違いましたけど、あたしが【パーティー】を組みたいという意思は変わりません。……どうでしょう、お兄さん?」



 ソルアとアトリのことを知っても、変わらず【パーティー】を組みたいと言ってくれている。

 それだけでも、俺としては二人の存在を認めてもらえたみたいで嬉しかった。


 結局【パーティー】機能はメンバーが増えれば増えるほど恩恵もある。

 もうすでに【パーティー】を結成した以上は、早いうちに限界の4人まで増やした方が得だ。

 

 もちろん、それは信頼しうる相手というのが前提条件。

 だが水間さんはそれに足りうる相手だと判断した。


【異世界ゲーム】という明日の身も知れない状況では、こうした判断は肌感・直感頼りでいいと思う。  



「――っし。俺はOKだ。来宮さん達にも意見を聞く必要はあるが……まあここまで来たんなら大丈夫と思う」



 とはいえ、一応念のため意思確認はしておくことに。



「あっ――っ~! はい! えっと、えっと! 皆さん隣の部屋なんで。早速行きましょう、お兄さん!」  


 

 水間さんは嬉しそうに年相応の笑顔を浮かべる。

 そうして急かされるようにして、ソルア達が見学中の別部屋へと移動した。



「は、ハルカ様。これは何でしょう?」


「――そ、ソルアちゃん。こ、これは……えっ、エッチな商品を売る自販機だよ!」


 

 ソルアと来宮さんが、何やら愉快なことをしていた。

 3つある冷蔵庫の内一つを開けて、興味津々で覗き込んでいる。


 ……俺たちの入室にも気づかないとか、どんだけ夢中なんだよ。

 河原でエロ本見つけた中坊じゃあるまいし。



「エッチな商品!? は、ハルカ様、ここ、あの例の“ゴム”があります! やはり“ゴム”はエッチな品物だったのですか!?」


「えっ!? あっ、いや、それは――って、た、滝深さん!? それにかなでちゃんも、どうしてここに!?」


 

 ようやく気づいてくれた。

 ただ最初に気付いた来宮さんだけじゃなく、ソルアさんも。

 

 とてもバツが悪そうに動揺し、真っ赤になりながらよくわからない言い訳を述べ続けたのだった。 



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「――うん。良いと思う。水間さん、機転が利きそうだし。一人で頑張ってたのを見ると、凄く頼り甲斐もあると思うしね」



 合流した久代さん達にも、【パーティー】加入の件について相談。

 久代さんからは良い返事がもらえた。



「えっと、うん。私も、大丈夫です。この後のことについてどうするかは置いておいて。一先ず【パーティー】は組んでしまって問題ないかと」 


 

 来宮さんも賛成票を投じてくれた。

 言葉だけを客観的にみると、少し含みを持たせた言い方にも感じる。


 ……でも、来宮さん、単にまださっきの“エッチな自販機に興味津々が露呈事件!”を引きずって恥ずか死しそうになってるだけっぽい。

 だから、水間さんの加入自体は歓迎してくれていると思って問題ないだろう。



「――あっ、来ました来ました! お兄さんから、ちゃんと、パーティー申請! えっと、これで……っと」


<パーティー申請が受諾されました>



 手続きが無事済んだことを示す通知が届く。

 これで正式に水間さんがパーティーに加入したわけだ。




[【パーティー】]



●生存者ネーム:TOKI


●パーティーLv.6


●パーティー申請


●パーティーメンバー:


 ①TOKI:リーダー 

→パーティーLv.6  

 全メンバー:MP+5 魔力+5 容量+5

 

 ②CLEAR CASTLE:メンバー 

→パーティーLv.3

 全メンバー:筋力+2

 

 ③Spring Nuts:メンバー  

→パーティーLv.3

 全メンバー:敏捷+2


 ④SOMA:メンバー(New!)

→パーティーLv.1

 

 計:4/4

 

●パーティーランク:F-




「よし、ちゃんと更新されて……ん?」



 4人目、水間さんが増えていることをしっかりとこの目で確認。

 だがどこか違和感というか、デジャヴを覚えてふと首をかしげる。


 その疑問に解答が出る前に――



<――おめでとうございます! 一つの【施設】の商品を買い占めることに成功しました!>


<新たなメールを受信しました。新着メール:1件>  



「えっ、うわっ、何っ!? なんか来ましたけど!?」



 水間さんにも同じものが届いたらしく、出会ってからで一番動揺したような様子に。

 もちろん来宮さん、そして久代さんにも通知が来たみたいだ。



 だが俺たち4人全員に、その心当たりが全くなく。

 それぞれが困惑しながらメールを開封する。



=====


18 差出人:【異世界ゲーム】運営


件名:ワールドクエスト“一番最初にパーティーで複数【施設】の商品買占め”のクリア報酬贈呈



 おめでとうございます。

【異世界ゲーム】開始後、一番最初にパーティーで複数【施設】の商品を買い占められました。


 クエストのクリア報酬を贈呈します。

 ゲームでの生き残りにご活用ください。



選択報酬:

①【パーティー共用 施設利用カード2000Isekai分】 ■

OR

②全メンバー:100パーティーポイント獲得


※パーティーメンバー全員が一致して選択することが条件となります。

 全員一致でないと、報酬は贈呈されませんのでお気を付けください。


=====


□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「えっ、えっ? 報酬? どういうこと、本当何ですかこれ?」



 いち早く文章を読み終えたのだろう、水間さんが混乱極まった様に誰ともなく尋ねた。



「“【施設】の商品を買い占め”……えっ、でもここって【宿屋】だよね?」



 来宮さんの確認に、俺たち全員が頷いて返す。

 そうだ、ここはラブホ――じゃなくて、【施設】の機能は【宿屋】だ。

 

 つまり、買い占めるための商品が売られている場所じゃない。


 

「……となると、別の【施設】の話をしていることになると思う。けど、どこのこと?」



 久代さんの疑問も当然だ。

 だが答えは直ぐには出てこない。


 なので別のことを考え、それで頭を回していこうと判断。

 買占めの話を一度置いておこうと決めた途端、直ぐに別の件でピンときたことがあった。

 

 


 ――ってか、水間さんの生存者サバイバーネーム。俺、見覚えあるんだけど。




 それは昨日、【マナスポット】捜索中のこと。

 久代さん達にもらったヒントを頼って新聞の販売店へと向かい、【施設 酒場】にたどり着いた。



 ――そこで“情報 下”を、“SOMA”が買っていたじゃないか!



「あぁぁぁ!」

 

「うわっ!? びっ、ビックリした! ――な、何ですかお兄さんいきなり。まるでエッチな映像を視聴中に親が入って来たみたいな叫び声でも出して」



 どんな声だよ!



「じゃなくて! 水間さん“SOMA”なんだよね!? “ソーマ”か、“ソウマ”か、呼び方はわかんないけど」  



 水間さんは何を当たり前のことを聞いてるんだとでも言うように、ポカンとした表情。

 


「はい? ……そうですけど」



 そうして困惑した顔になり、頭は大丈夫かとでも問うように言って来た。



「えっ、何ですか? お兄さんの昔の幼馴染のあだ名が“ソウマちゃん”か“ソウマ君”だったとか? でもお兄さんが7,8歳の頃、あたしは2,3歳です。……残念ですが『昔仲の良かった男っぽい親友が大きくなったら美少女になってた件』みたいなラノベ的展開は、あたしが相手では無理かと……」



 だからそうじゃないって!

 いや、君、本当色々とどうでもいいこと良く知ってるね!


 

「んなの一切期待してなかったから。そういう事とは違くて……“買占め”の件。原因というか、真相がわかった。――【施設 酒場】の情報だよ」




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