第42話とある弁護士side


 頭が痛くなる思いだったがここで退くわけにはいかない。仕事なのだから。

 取り敢えず落ち着くよう説得し、ここで暮らすには危険すぎることを話した。


 すると信じられない言葉が返ってきた。


「なんで?」


 絶句するとはこの事だろう。

 何でだと?

 この場所の治安の悪さを理解していないのか?

 こんなスラムのような場所で子供を守れるとでも?

 彼女はマトモな判断ができないのか?


「エラ嬢、あなたが思っている以上に深刻な問題なんです」


「何が問題だって言うの?記者がうろついている訳じゃないし、誘拐犯が張り込んでいる訳でもない。この部屋自体に認識不可の魔法をかけているから私達親子が居るなんてバレないわ」


 そんなことも分からないの?と言わんばかりの目。

 呆れているのはこちらだ。

 認識不可というが、ライアン様はお二人の居場所を瞬時に特定されたぞ!?


「危機管理能力が欠如しているのは貴女の方です」


「なんですって!?」


「あなた方の居場所などライアン様クラスの魔術師なら一瞬でバレます。ライアン様でなくとも優秀な魔術師や道具を使えばすぐに見つけ出せるでしょう。エラ嬢、確かにあなたは優秀な魔力持ちでしょう。ですが、世間には貴女以上に優秀な者は大勢おります」


「なによ!裁判も終わったんだから大丈夫よ!」

 

「大丈夫なはずがないでしょう!? あなた方親子の存在を世間は知っているんですよ?この国だけじゃありません。周辺国の研究機関に狙われているという現実を受け入れてください。データーの流出問題もありますが、としてお二人の身柄を押さえようとする人間は大勢います」


「なっ!?」


 本当に理解していなかったのか。

 暢気すぎないか?

 それとも狙われる対象が御子息だけとでも思っていたのか?


 馬鹿な!!


 息子キメラを人型として出産できた彼女も十分研究対象だ!!!


 研究者を舐めているのか?

 彼らは研究者としての知的好奇心を抑えられない。「やってみたかった」の一言で倫理観をかなぐり捨てる事ができる。


 それは国家も同じだ。

 彼女は国家権力を甘く見ている。

 魔力持ちが減っている状況に悩んでいるのはこの国だけじゃない。他国も同様だ。だからこそ高い金を払って他国の魔力持ちをヘッドハンティングしているんじゃないか!


 国が魔力持ちが居なくなる事を念頭に置いて対処しているせいか?

 他の国も同じと考えているのか?

 とんでもない!

 多くの国は、そして人はそんなに諦めが良くない。

 禁忌だと分かっていてもそれに手を伸ばして何とか回避しようと考え実行する。この国とてソウだ。裏でどんな恐ろしい実験を行っているか分かったものじゃない。

 


 ライアン様はそれを御存知だった。

 だからこそ、親権を奪うことなく養育費を出すと仰られたんだ。


 例えそれが一欠けらだけの温情であったとしてもだ。

 彼女達が生き残れる処置を施されたのだ。

 そんなことも理解していなかったのか!?







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る