ななつの、ふしあわせ。

荒川 麻衣

サムシング・アンラッキーセブン

 結婚式に、サムシング・ブルー、青いものが必要なように、人生には、サムシング・ラッキーが必要なのだ。


 立ち読みした本に、そう書いてあった。

 サムシング・ラッキーは、7つある。

1つ、友達がいること。

 2つ、愛されて育ったこと。

 3つ、規則正しい生活をすること。

 4つ、恋人がいること。

 5つ、異性の友達がいること。

 6つ、親を尊敬すること。

 7つ、仕事にやりがいを持っていること。

 

 立ち読みした本を買うのをやめる。

 何が「人生が変わる7つの幸せな法則」だ。


 俺の人生、すべて真逆だ。


 俺の人生には、7つのサムシング・アンラッキーがある。


  1つ、友達がいないこと。

 2つ、愛されずに育ったこと。

 3つ、不規則な暮らしをしていること。

 4つ、恋人がいないこと。

 5つ、異性の友達がいないこと。

 6つ、親を軽蔑すること。

 7つ、仕事に意欲がないこと。


 この7つをそろえて、中年男性として、金なし、愛なし、家族なし、実績なし、資格なし、仕事なし、休みなし、の7つがそろっている。


 35歳を超えれば、非正規から脱出できると思っていた。

 金はない、貯金はない。愛なんて知らない。家族は、年老いた、尊敬できない、暴言と暴力で世の中を渡ってきた人たちだから、家族だと思っていない。実績なんてものは、非正規の仕事ではつかめない、亡くなった西村賢太が文才で上がったのは、本当に数少ない例外で、中年男性の一発逆転なんて、そうそうあるはずない。


 一発逆転なんて、ただしイケメンに限る、というただしがき付きだろう。もしも、西島秀俊の代わりに俺が出てみろ、世界の誰もが納得しない、世の中、顔だ、顔が全てなんだ。


 資格?中1の時にとったよ、英検5級!うっすい、誰にも自慢できない資格をな!!


 仕事?仕事と言うか、コロナで全部飛んだから、親の年金で暮らしている。


 情けないよなぁ、ほんと、男としては無能、って言うか、女を抱く金すらねーの、ソープ?なにそれ、金持ちの遊び?


 大工町に行けば、金さえ払えば、女と遊べますよ、と、無料案内所の黒服が、声をかけてくる。


 おそらく、看板の女は実在しない。違法だが、インスタグラムや、ツイッターで、よく知られていない美人女性の顔を加工し、実在しない女の画像を作り上げ、中に入れば、デブスが待っている。


 廃墟だったクイーン・シャトーは、金の力でソープに返り咲いたらしい。東日本大震災で、茨城は、水戸芸術館をはじめ、廃墟まみれだった。


 あれから12年経ち、街は静かに死のうとしている。


 京成百貨店も、狙われたのは、コロナ助成金の不正受給でなく、新政府に逆らった罰の延長線上、百里基地だってそうだった。


 沖縄の人間にしか、飛行機の爆音は理解できない?


 ふざけるな、東京民。


 茨城で、小学校、中学校、高校、おおげさでなく、何度も飛行機の爆音で授業は止まった。


 百里のそばで授業を受けたこともないのに、百里と青森と、それから、弱いとこばっかり、新政府にさからったところに飛行機の爆音を置いて、東京は清浄なる空気を吸い込んだ。


 町田は神奈川だっていじる人間がいるが、日に日に、アメリカの飛行機が爆音で、我らをあざわらうように低空飛行していく。


 羽田、成田、闘争して学生運動して、抵抗しても、へのへのかっぱ、泣き面に蜂、国籍ガチャ失敗したって泣いたよ。


 休みなし。


 介護に、休みはない。


 暴言、暴力を、なぜか親は俺に振るうので、自営業を続けて、お客様からいただいた不満、問題、その他もろもろがたまると、思い出したように殴り、暴言を吐き、それから。


「お待たせしました」


 俺を一発殴らないと、電話に出られなかったんだ、うちの母親。


 で、倉庫、ほら、靴の倉庫、ガラスの動物園で、ほら、主人公、トムとジムが出会い、会話する、あそこ。


 あそこって、夏でも寒いし、涼しいんだけど、防音が効いているから、ガン、と、殴ったり、暴言吐いたりしても、隣近所に聞こえないから、殴り放題、だから、とんでもなく、周りには高い靴がずらりとならぶ、アルシュ、バリー、それ以外はなんだ、フェラガモはなかったけど、ハッシュパピー、靴箱でものを買っているんだよ、金持ちは。

 靴箱だけ見ると、メーカー、製造元なんてわからないよ。


 送り返したりもするし、試着したけどダメだった、と言う理由で倉庫に戻り、あるじを待つ、巨大な墓場。


 俺の不幸は、生まれたこと。


 生きながらえてしまったこと。


 東日本大震災で、本当は、

 死んだ方がよかったのに、

 どうしても死ねなかった。


 死にたくても、死にきれず、ただ。


 アンラッキーセブン、

 七つの大罪、いきなりに不幸はおとずれるのさ。


 そんな毎日を送っていた。


 ある日、すれ違った。


 ひとりは、黒羽麻璃央。


 もうひとりは。


 え、と思った。


 縁ができたな。


 桃井タロウだった。


 目があって、すっと離れる。


 残念ながら、俺の人生。


 捨てたもんじゃないらしい。


 舞台の上のヒーローは、

 俺より何歳も年下なのに、

 生き延びてください、

 と声をかけてきた。

 

 今年でもう、40歳まであと3年か。


 よし、もうちょい、

 まずは寝よう、

 中年になってから、

 どうも疲れやすくてしょうがない。


 リュウソウブラウンみたいに、

 適当に戦っても、勝てることはある。


 ま、人生、気楽にいきましょうか。


 注意:この話は、実話をもとにしたフィクションです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ななつの、ふしあわせ。 荒川 麻衣 @arakawamai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ