お金が半分になった話

どこかのサトウ

空前の投資ブーム

 2024年6月、日経平均株価は3万5千円を超え、空前の投資ブームだ。

 TVでは投資の特集が組まれ、書店の入り口には投資に関する本が山積みだ。駅では至る所に証券会社の広告が張り出され、コンビニでは投資を勉強する学校の広告放送が聞き飽きるほどに流れている。

 帰宅してTVをつけると、小学生の子供がパソコンの前に座り、株の値動きを示したチャート図をかじりつくように見詰めていた。

「どれくらい儲かりましたか?」

「お年玉で投資して、今150万円ほど含み益があります」

 TVの会場では驚きの声が上がっていた。

「いや〜小学生の子ができるなら、僕でもできそうな気がしますね」

 コメンテーターがそんなことを言っている。

 俺はお茶を一口飲んで呟いた。

「駄菓子屋で札を使う小学生が出てきそうな勢いだな」

 コンビニで買ってきた弁当を食べ終わり、ソファでのんびりしていると携帯が鳴った。

「もしも〜し」

 友達からだった。電話の内容はやはり投資だった。

「よくわからないんだよな。でも興味はあるんだ」

「そっかそっか。もしやるなら、捨てても良いかなって思える金額で始めてみな。下がった時とか、気が楽だからお勧め」

「ふーん」

 少しやってみるか。そう思った。


 2024年7月1日、うるさいくらい蝉が鳴いていた。クーラーの効いた部屋で俺はパソコンの前にいた。

「証券会社にお金は入れた。何を買ったらいいんだ?」

 俺はインターネットで検索し、おすすめを購入することにした。

「よし、千円分買ったぞ! ラッキー7とも言うしな、7月7日なら上がってるんじゃないか?」

 全く以って根拠もないことを言いながら画面を閉じた。


 7月17日、毎日うるさい蝉が全く鳴いておらず、日曜日ではないのかと錯覚するほど静かな朝だった。

 珍しいと思いながらドアポストに放り込まれた朝刊を引き抜いて新聞を広げた。

 一面には、日経平均株価暴落の文字がデカデカと書かれていた。

 携帯を見て確認する。俺の千円は半分の五百円になっていた。

「まぁ、こんなもんか……」

 このあと、友達から電話で連絡があり、投資を進めたことを謝られた。5百円損しただけだと伝えると胸を撫で下ろしていた。

「がっつり投資している俺が言うのも何だけど、運が良かったよ」

「そうなのか?」

「まぁ、友達無くさなくて良かったからな」

「そっか、そういえばお前は大丈夫なのか?」

「いや、総資産の半分が一瞬で消えちまったわ!」

 そう言って大笑いしていた。

「運が良いのか悪いのか、投資はよく分かんないな」

「まぁ、勉強あるのみだよ」

 そう言って、彼は電話を切った。


 あれから数ヶ月経った。俺も友達もマイナスになった分はゼロになった。

 めでたしめでたし。


 おわり

 

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