確率変動
新座遊
半舷上陸で行く先は
帝国海軍の訓練は厳しい。
昭和16年に日独伊三国同盟を破棄し、米帝との闘いを回避した帝国日本であったが、いつまた太平洋の覇権争いが勃発するかもわからない。
したがって、帝国海軍は日夜訓練に勤しむのであった。月月火水木金金、とも言われる休みなしの日常。
1週間は7日。
安息日もない海軍はアンラッキー7である、などと陰口を叩かれる。困ったものだ。
とはいえ、時はすでに令和の時代。
いつの間にか、帝国日本と米帝および英帝は同じ海洋国家同士として軍事同盟の関係を結び、大陸国家を仮想敵としつつ、ランドパワーが合一しないようなバランス外交を行っていた。
日本臣民も戦争を知らない若者が増えており、ともすれば米帝の軟弱なるワークライフバランスやら心理的安全性やらコンプライアンスやらの概念が導入され、厳しいだけの海軍では、兵役を全うすることができなくなってきた。
徴兵してもみな陸軍を希望するようでは、海洋国家としての威信にかかわる。
ただでさえ、陸軍より海軍の徴兵期間が長いのだ。
せめて楽しい海軍、優しい海軍、という標語通りにしなくてはなるまい。
で、半舷上陸である。駆逐艦の乗員100名のうち、半分の50人が艦を降りて娑婆で休めるという制度。さすがに全員一度に休むと艦の機能が止まってしまうので、これは仕方がない。
突撃一番を支給されて水兵たちは夜の街に消えていく。しかし、そのような趣味がないやつは、駅前のパチンコ屋に行くのである。
軍艦マーチが鳴り響く店は避ける。休日なのに職場を思い出させてどうするのか。
そもそも帝国海軍では、駆逐艦は軍艦のカテゴリーに入っていないのだが、水兵にとってはそんなことどうでもよい。
水兵は、新規台の前に座り、確率変動を目指して打ち始める。
777が確変のナンバーだ。ラッキーナンバーは7。
アンラッキー7と言われた過去など、忘却の彼方であっただろうか。
確率変動 新座遊 @niiza
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