魔王もの

@yao_syousetu

お題:魔王もの─友人作

街中で人々の往来が騒がしい中、1人の少年は狭く暗い一部屋の中で舟をこいでいた。

この騒がしい中、なぜ彼は眠りに落ちられるのであろうか、否、実はそんなことはない。彼自身は全くもって眠くはない。ただその原因がいくらたっても離れてくれないからである。


???「おぉ~い」


1体の人間大の影がゆらゆらうごめきながら少年に話しかける。いかにも人間どころかこの世のものとは思えないような存在である。少年はとある名曲を知っていた、それは一人の少年が父親に魔王に襲われると助けを求めるが気づかず、結果として命を奪われるといった楽曲だ。彼は多感な時期で、その二の舞にはなるもんかと必死に寝てるふりをしているのである。


???「…しょうがない、諦めて向こうに行くか」


少年にとっては歓喜の一言が脳内に響き、思わずぴくっと動いてしまった。


???「あれえ?いま、うごいたよねええ??」


そっぽを向くようなそぶりを見せた影がまた少年にかお?を向ける。だまされた…と少年は必死に寝てるふりをしようとしたが時すでに遅し、反応したところを見た影はあざけるかのように話しかける。


???「わかってるんだよ?聞こえてるでしょ、お願いだから反応してよ・・・」


あまりにかわいそうな声を出すので少年は仕方なく目を開いた。そこには影、顔も体も、どこが境目なのかもわからぬほど真っ黒な図体であった。


少年「お願いだから消えてよ、ぼく可愛くもおいしくもないよ」

???「そらそうだ、可愛くもないしおいしそうでもない。自意識過剰なんじゃないの?」

少年「ッハァ!?!?!?」


少年は突然煽られ呆然とした。初対面のはずなのになんだこの腹立たしい態度は。少年は影の危険性は感じられないと判断、更に馬も合わないと判断しこの場を離れることにした。





???「ねえ少年~」

少年「はなしかけんじゃねえ!!」


少年は今おいかけっこをしていた、人間や動物とではなく影と。もちろん己のではない。少年はあれ以来陰から離れようと部屋から出たが、影が執拗に追いかけてきて、離れてくれない。


少年「なんで追いかけてくるんだよ!!」

???「約束守ってもらうためだよ!!」

少年「約束なんてねえよ!初対面のくせに!」

??「初対面じゃないよ、君ココでしょ」


少年は一瞬冷や汗をかいた、少年はさらにスピードを上げる。


???「ぜえ、ぜえ、なんでスピード上げるんだよ!!」

少年「こわいからだよ!親からは知らん大人とは遊ぶなって言われているし!」

サタン?「じゃあサタン!サタンだ!二度と忘れんなよ!!」

少年「しらないよ!」


サタンと名乗った影に追われながら少年は無我夢中に走る。どうやらこの影は少年にしか見えないようだ。少年は必死に前も見ずに走り続けると突然影が少年の前に回り込む。


サタン「あぶない!!」


少年は全力で止まる、気づいたら目の前は崖で途切れている。ここは魔月見崖、月がよく見れるほかとある伝承が残っている。見下ろすと町があるがもし落ちていたらひとたまりもないだろう。


少年「あ、危なかった…」

サタン「何をやってんだよ!また待たせるつもりか?」

少年「待たせるも何もないでしょ、だってはじめましてだ…」

サタン「お?なにかはじまるのか」


影は崖の先にある海を見据える。いつもは街もこの周辺もとても静かなのだが今日は違う、とあるイベントがもようされるのだ。


少年「今日は人類独立の日、花火が上がるんだよ」

サタン「そうか、そんなもようしものが…」


影は顔が分からない、しかし、その表情は陰りを浮かべるかのように感じられた。


少年「初めてなの?サタンはここの人じゃない?」

サタン「いや、そういうわけじゃないんだけどね」

ココ「ふうん、変なの」


少年は答えたものの、胸のあたりにふと謎の違和感を覚えた。しかし、何の違和感かもわからない。頭を悩ませていると、


サタン「おお!」


海のほうで見事な花火が上がった。音はド派手に、視界はまぶしく見切れないほどに、まるで魔法のようである。


サタン「…少年」

ココ「…なに?」

サタン「少年は、将来何になりたいんだ?」

ココ「う~ん、何も考えてないよ」

サタン「そうか」


影は何かを深く考え込み、沈黙を始めてしまった。少年はその沈黙に耐え切れずに話しかける。


ココ「…ねえサタン」

サタン「なんだ?」

ココ「サタンって人間じゃないよね?」


すると影はこちらに顔を向けるかのようにうごめいた。


サタン「そう思うか?」

ココ「うん」

サタン「ならば・・・」

サタンは突然宙に浮かび、謡うように少年に問いかけた。


サタン「少年よ、貴殿は我を何と存ず」

ココ「突然どうしたの」

サタン「・・・・・・」


サタンは何も答えない。少年はすこし思考を巡らせ、そして静かに答えた。


ココ「魔王かな」


サタンは表情を変えない。


ココ「だって、大人とか誰にも見えないし、こんな執拗に僕に話しかけてくるんだもん」

サタン「…ならば」


サタンはココに向き直る。


サタン「貴殿は力を欲するか?」


ココは笑顔で答える


ココ「いらないよ」

サタン「は?」


影はしゅるしゅると舞い降りる。気持ちしぼんだ気がする。


サタン「ここはイエスだろぉ、かわらんなあ」

ココ「そんなことないよ~」


2人は笑いあい、そして花火が打ちあがり終わったであろう空を見上げる。そこには1年で一番大きく輝く満月がそこに合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る