episode19「Trust You,Trust Me」
事態は、およそ想像し得る最悪の状況へ発展しつつある。
チリーがそう決意しつつ、思考を巡らせていると、レクスが隣で強くうなずいた。
「……このまま放っておくわけにはいかない。出来るかわからんが、俺達で破壊するしかない」
「レクス、お前言ったよな。装甲が硬すぎたってよ」
「ああ……」
「だったらそいつをぶち抜けるか、俺が試す。もうわかってると思うが、俺はエリクシアンだ。試す価値はあると思うぜ」
レクスがうなずいたのをチラリと見てから、チリーは
高く跳躍し、拳に魔力を集中させる。
魔力を込めて
高密度の魔力が圧縮された、分厚い魔力の熱線だ。それが高速で
「――ッ!」
爆音を立てながら、
「効いたか!?」
少し後方で、レクスの声が期待を帯びる。だがその期待はすぐに裏切られた。
「なんだよ……痒いじゃないか?」
無傷、というわけではないがその損傷は極めて軽微だ。
晴れていく煙の中から現れた
「なるほど……確かに硬ェな」
着地しつつ、チリーは舌打ちする。
ダメージがないわけではない。今の一撃を何度も繰り返せば最後には破壊出来るだろう。ただその回数が数十か、数百か。あまり現実的ではなかった。少なくとも動き、こちらへ攻撃してくる
瞬間、チリーの方へ
「チッ……!」
まだ屋敷の中に人がいる可能性がある。チリーは再度舌打ちすると、振り下ろされる拳目掛けて魔力の熱線を放った。
下から迎撃された
直撃した
大量の木々をへし折り、地面にクレーターを作り出す。
「なんてパワーだ……!」
レクス達がどれだけ挑んでも、僅かに傷をつけるのが精一杯だった
「おい、起き上がる前にここを離れるぞ!」
肩で息をしつつ、チリーが叫ぶ。今のところ、中にいるリッキーがまだ完全に操作に慣れていないせいなのか、時間稼ぎくらいは出来る。だがそれも長くはもたないだろう。
「屋敷の中にいた者は全員避難させたぞ!」
「ジェイン!」
駆け寄るレクスに、ジェインが大きくうなずく。
「なるべく屋敷から離れるぞ!」
チリーのその言葉に頷き、全員が行動を開始した。
***
屋敷からある程度離れ、チリー達は一度大木の影に身を隠す。意識を取り戻さないシュエットを少し離れた位置に寝かし、
「あいつがぶっ壊れるまで攻撃し続けりゃなんとかなるかも知れねェが……間違いなくもたねェ」
チリーの攻撃はダメージを与えることが出来るが、それ程大きなダメージは与えられない。装甲を削ることは出来ても、本体にダメージが通らないのだ。弱点らしき部位があればよかったのだが、今のところそれらしき部分は見当たらない。
「足だけでも破壊出来ないか? せめて機動力が奪えれば……」
レクスがそう提案すると同時に、
「足に集中すりゃ出来るかもな。……やってみるか?」
そう話している内に、チリーは
「――――まずいッ! 伏せろ!」
次の瞬間、ドス黒い閃光がチリー達目掛けて放たれた。
それは木々を焼き尽くし、地面を抉り、範囲内の全てを”殲滅”しながら向かってくる。
即座に、チリーとレクスが全員をかばうようにして立つ。
「耐えてくれ……ッ!
レクスの剣――――
レクスは
今にも腕が千切れそうになる衝撃に耐えながら、レクスは
その隣では、自身の鎧で正面から
やがて、熱線が収まる。
そこに残っていたのは、鎧がボロボロになったチリーと、所々欠けた
残りは根こそぎ殲滅された。木々も、地面も、塵一つ残らない。巨大なクレーターの中にポツンと残った草の生えた地面の上に、チリー達はなんとか立っていた。
「ハァッ……ハァッ……!」
今のを連発されれば勝ち目はない。
あんなものが町に放たれればひとたまりもない。
おまけに今ので相当な体力を持っていかれたチリーは、再び魔力をチャージし始めているであろう前方の
「何か……何か手はねェのか……!?」
再び、
それでも……
「クソッ! お前ら俺から離れんじゃねェぞッ!」
後ろにいる全員にそう叫び、チリーは身構える。
突如、
角度をずらされた
「今のは……ッ!」
そのままサイラスは
「よォリッキー! やるじゃねえかァ! 今のお前と
「この戦闘狂のイカレ野郎! これ以上お前みたいなのの下でやってられるか!」
再び起き上がった
あれだけの攻撃を受けてもまだ闘いに執着する姿に、チリーは顔をしかめたが、ある意味これはチャンスでもある。
しかし、サイラスを戦力にカウントした上で
サイラスが接近戦を仕掛け、魔力の再充填を妨害している今の内に、何か打開策を思いつかなければならない。
「クソッ……!」
この傷ついた状態で、レクスと共に
「チリー!」
拳を握りしめ、
「バカ! 離れてろ!」
「待ってチリー! 私に……考えがあるの」
ミラルがそう言うと、後ろでラズリルがピクリと反応を示す。
「まさかミラルくん……」
ラズリルに対して小さく頷き、ミラルはチリーへ視線を戻した。
「聖杯の力を使えないかしら」
「何……?」
ミラルの言葉に、チリーはハッとなる。
なら、魔力を操作する聖杯の力は、確かに有効かも知れない。
だが……
「恐らくミラルくんの聖杯は、触れなければ効果を発揮出来ない!
ラズリルの言う通り、ミラルの力は触れなければ発動しない。ミラルを
すぐに、チリーは首を左右に振った。
「駄目だ。危険過ぎる」
「わかってるわよそんなこと! でも、他に方法なんてあるの!?」
ミラルの言葉に、チリーは言い返せなかった。
現状、このまま
だがこの場からチリー達が逃げ出せば、町は巻き込まれる。そしてそのまま、あの危険な兵器がゲルビア帝国へと渡るのだ。
「……死なせたくねェ」
呟くようなか細い声が、チリーから漏れる。
「俺は、お前を死なせたくねェッ!」
繰り返したくなかった。
あの時、自身の魔力を抑えきれずに暴走した時に感じた恐怖がこびりついている。
「……チリー、私を信じて」
「ミラル……」
「私はチリーを信じてる。だから、力を貸してほしい。私を、
決意を秘めたミラルの言葉に、チリーは息を呑んだ。
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