幸運か不運か
桝克人
幸運か不運か
僕の彼女は特異体質だ。これは彼女の自己申告で、誰もが彼女を見て奇異の眼で見ることはない。僕もそう思っている。ただし彼女と関わった人は頷くしかない。自称他称含め、彼女は『不運体質』なのである。
生まれてこの方ツイていないことが多いのだと彼女は言う。赤信号は必ず引っかかり、なくしものや小さな怪我は数知れず、遠足や旅行などのイベント事は雨が降る。不幸中の幸いはどれも小さな不運であることだろうか。当の本人はその慰めも人の数だけ聞いたと苦笑いをする。
もしこの世の中に『不運スロット』なるものがあるとすれば、彼女は常に
今日も共通の趣味のひとつ映画館デートに行こうと一か月前に計画をしていた。マイナーな映画で上映している映画館が少なく、地方の小さな映画館に足を運ぶことになった。一日のうち上映回数はたったの二回。それも今日が最終日だった。言うまでもなく、それまでに行こうと何度も予定に入れていた。それでも彼女の特異体質が如何となく発揮されおじゃんになっていた。
今日こそはと気合を入れていたにも拘わらず、朝は休日なのに上司から確認の電話がかかり、電車に乗れば三十分以上の遅れを出した。流石に冗談かと思ったのは、外で待っていた僕のスマホに『着いたー(泣き顔の絵文字)』と届き、顔をあげると彼女が泣きそうな笑顔で手を振りながらこちらへ走ってくる。すると彼女の頭の上にぽとんと白いナニカが落ちた瞬間を見届けることとなったからである。白いナニカが鳥の糞だと知るのに時間がかかるのは無理ないだろう。だって人生で鳥の糞が頭の上に落ちて来た人なんて昭和のギャグマンガでしか見たことがなかったのだから。一周廻って運がいいのではと首を傾げたくなる。
慌てて持っていたハンカチを駅構内にあるトイレの洗面所で濡らして拭いた。こびりつく前に取り除くことは出来たが、僕の加減が悪かったのか頭からぐっしょりと濡れてしまった。夏場ということもあってすぐに乾いたけれど、あれこれ時間がとられ、結局映画には間に合わなかった。途中入場は二人とも躊躇いがあったのと、彼女もぐったりし映画を見る気力は奪われたので、急遽カフェデートに変更することとなる。
「ごめんね。今日が最後だったのに」
「気にしないでよ。誰も悪くないんだし」
慰めの言葉は彼女の心には僕の気持ちの半分も届いていないのだろう。変らずしょげてアイスコーヒーのストローを噛んでいた。
「DVD買って僕んちでゆっくり観よう。ポップコーンとコーラ、君の好きなジンジャーエールを買ってさ」
こくりと頷いた。本当は映画館で見たかったのだろう。瞳にはまだ未練が滲んでいる。
「でもDVD手に入るかな。日本での発売があればいいけれど」
「大丈夫だよ。だって僕は幸運だからね」
そう彼女が
何よりも彼女とつきあっているだけで充分幸運だろう。彼女はどうだろうか。僕とつきあっているのは彼女にとって―――
幸運か不運か 桝克人 @katsuto_masu
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