異世界転生したと思ったらSF世界でした!?~ニワカ野郎が頑張ってAIの支配から逃れるだけの話~

亜未田久志

第1話 正月に死ぬとかめでたいやつだな(皮肉)


 テレポート技術は発展していった。

 身体を素粒子レベルにまで分解して再構築する実験はマウスで成功している。

 脳波の一致率も確かだ。

 よって抽選で選ばれた人間を次の実験対象とする。

 Dr.Cより。


「んで俺が選ばれたってわけ」

「ほーん、よかったじゃん、一瞬で日本からパリだっけ?」

「ちげーよブラジルだよ地球の裏側」

「ブラジルってなにがあんの」

 そこで男二人は首を傾げた。

「まあよかったな隼人、帰ってきたらブラジルの話聞かせてくれよ」

「おう、夕貴もまたな」

 それが二人の最後の会話だった。

 後日、家に来たエージェントに連れられ目隠しされて車に乗せられる隼人。

「なんすかこれ……」

「機密保持のためです」

「はぁ……」

 目隠しを外されるとそこは出来たてほやほやの病院の様な施設だった。

 眩しさに目を細めているとエージェントから紙を手渡される。

「同意書です、ご記入ください」

「なんの」

「テレポーテーションに関する事です」

 そこには英語で色々な事が記されてあったが。

 英語がABCの内のC評価の隼人にはなにがなにやらさっぱりだった。

 とりあえず名前を書くであろう欄に記入をする。

「ありがとうございます。では奥の装置へ」

「はい……」

 いまいち信用出来ていない隼人だったが知らない土地に連れてこられてもはや自分は袋のネズミだ。相手の言う事に従うしかない。

「奥の装置ってこれか……? なんか輪っかみたい……?」

 縦に置いたCT検査装置のガントリを想像してもらえると分かりやすいだろうか。

『そこに立ってくれたまえ』

「うわぁ!?」

 突如、設置されていたスピーカーから声が出る。

『驚かせてすまない。私はDr.Cドクターシー。気軽にドクターと呼んでくれたまえ』

「はあドクター、本当にこれでブラジルに行けるんですか?」

『心配いらない、マウスでの実験には成功している』

「はぁ……じゃあ立ちますよーっと」

『よろしい、では実験を開始する』

 すると輪っかが隼人の頭をすっぱり覆う。

 そこで隼人の意識は暗転した。


 C


 目を覚ますとそこは――

「うっ……どこ……だ……」

「やれやれ、正月に死ぬとはめでたいやつだな」

「死……あんた何言って……?」

「私の名前は先ほど言ったはずだが?」

 そこには車いすに乗った爺さんがいた。

「誰……いやまて……先ほど……ドクター?」

「いかにも、Dr.Cだ」

「なんでドクターが目の前に、ここブラジルじゃ?」

「だから君は死んだんだよ、テレポートに失敗してね」

「は?」

 意味が分からない、そんな風に首を振る隼人。しかし目の前の老人が辺りを指さす。

「何が見える?」

「何も……見えない……ていうか無い……?」

「そうだ、此処は精神の世界、運よく素粒子にまで分解された君の脳波だけをキャッチする事が出来た」

「あんたは!?」

 隼人は何もかも否定して欲しくて声を荒げる。Dr.Cは自らの頭を指さすと。

「私は脳に特殊な改造を施していてね、脳波と脳波で会話が出来るんだ。ただし、それは相手が脳波だけの状態に限る。今回の様にね」

「じゃ、じゃあ、俺は本当に死んだってのかよ」

「ああ、誠に申し訳ないが」

「身体、無くして、俺、どうやって生きていけばいいんだよ……ってもう死んでんだった……笑っていいぜドクター」

「いいや笑わないし、君にはまだ選択肢がある」

 そこで隼人は顔を上げ(ように感じただけであり、今の彼に身体は無い)Dr.Cを見やった。

「君の意識を未来に送ろうと思う。現代医療では君を蘇生するのは不可能だ、しかし、未来の技術なら可能かもしれない」

「そんなことが可能なんですか!?」

「未来に送ると言っても、これは単なるコールドスリープとなんら変わりない。身体が無い分、確実性が高いとも言える。ああ、いや未来に君の蘇生方法があればの話だが、要するに君を一時的に眠らせて次に起きた時が未来だった……という筋書きだ」

 コールドスリープ、夏〇の扉で読んだやつだとなり興奮する隼人。

「しかし未来に君の知り合いはいないし、何度も繰り返すが蘇生の可能性も絶対ではない」

「それでも俺は可能性がある方に賭けます」

 Dr.Cは首を振る。

「やれやれ、若人というのは勇気あっていいね、私も見習いたい」

「次はご自身でテレポートしては?」

「やれ手痛い返しが来てしまった! 早速だが眠らせる準備に入ろう。これ以上心苦しい想いは私もしたくないからね」

「頼みましたよ!」

「では、ハヤト・イサミくん」

 ――は?

 その言葉を発する前に、隼人の意識は再び暗転した。

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