ユーレー
登魚鮭介
プロローグ
僕はいまとてもびっくりしている。
何故なら、目の前で幽霊が僕におもてなしをしているからだ。
1時間前
「ここかー。今回も結構遠かったな―」
僕は
心霊スポットを巡る事が趣味の高校生。
こんな趣味をしているせいか、友達はあまりいない。
今日もお気に入りの自転車で、この山奥のトンネルまでやってきた。
「にしても、ここは面構えというか、何と言うか、オーラが違うな。流石は県内で一番恐れられている心霊スポットなだけあるね」
そんな事を思いながら僕は夜になるのを待っていた。
そして、いよいよ日が傾いてきた!という時間帯にこのトンネルに入ったのだが......
「うーらーめーしやー!どう!?自家製納豆でも食べる!?」
「え、えー!?幽霊が滅茶苦茶フレンドリーにしゃべりかけてきたー!?なんなら、県内最強の心霊スポットで!しかも納豆て!おもてなしのセンスはどこに置いてきた!?それで成仏できてないんか!?」
「えへへー。そんなに褒めても何も出ないよー?」
「微塵も褒めてないけどね!ていうか、逆に何が出るんだよ!気になるわ!体透けてるんだし!」
「なんだろう、納豆とか?」
「納豆はもうええて!」
目の前に現れた幽霊はそういいながら手に持った納豆をひたすらにかき混ぜている。
「ん?待てよ?まったくもって怖くないぞ?」
「気づくの遅くない?それよりアタシから言わせれば、普通逃げるでしょ。なんでそんなに冷静にツッコミを入れられるのよ」
幽霊はそう言った。
「そう言われてもな。慣れてるからかな」
「慣れてるってどういう事?」
「趣味なんだ!心霊スポットを巡るの!」
僕は自信満々にそう答えるが、幽霊さんに若干引かれ気味にこう言われた。
「アンタ、それで友達いるの?」
「いたら今頃友達と晩御飯でも食べてるよ......」
「な、なんかごめん」
「ま、別に良いけどね?」
「さっきのセリフは何だったのよ......」
そんなこんなでこの後も色々あり、現在に至る。
「で、結局どっちがいいの?コーヒーか、紅茶か」
「じゃあ、紅茶で」
あれ、幽霊が淹れてくれた紅茶を飲む機会なんて中々ないぞ?
もしかして、僕はとてつもなく運がいいのか!?
いや、そんな事はないな。
日常的に心霊スポットって行くものじゃないし。
「あ、ダージリンなんだけど、良かった?今これしかなかったのよねー」
「お構いなくーって、何普通に受け取ろうとしてるんだ僕は!?」
「何、アンタ情緒不安定なの?」
「いやいやいや、一般的に考えて幽霊が淹れてくれたお茶を飲むなんて機会はそうそうないでしょうよ!僕はそれができてるんだよ!?凄くないかい?」
「うん。ごめんね。訳が分からない。」
「ちなみに安全性は大丈夫なの?このお茶」
「大丈夫よ?欠点としては発酵しすぎてまともに飲める物じゃないくらいかしら」
「安全性は大丈夫でもだいぶ怪しいね。やっぱり遠慮しときます」
僕がそう言うと幽霊は涙目になってこういった。
「折角淹れたんだから。飲んでほしいなー。飲まなかったらどうしようかなぁ?呪い殺してやろうかなー」
「ありがたく頂戴いたします」
ていうか、今しれっととんでもないこと言ったぞ。この幽霊。
「まあ、そんな事するだけ時間の無駄なんだけどね」
ん?落ち着いて考えろよ?
なんで県内で一番恐れられているはずの心霊スポットで、こんなにフレンドリーな幽霊が居るんだ?
僕と彼女の始まりはここからだった。
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