彼女な私と、彼女と私

椨莱 麻

第1話

私は昔から自己主張が苦手な子どもだった。

周りに合わせて、周りに流されて、いつもストレスを感じていた。

でも唯一、気を遣わずにいられる人たちがいる。


藤岡ふじおか裕太ゆうと真島ましまひかり。


私たちは幼馴染だった。

家が近所で親同士も仲が良かった。

幼稚園の頃は、よく誰かの家に押しかけては

ゲームキューブで遊んでいたっけ。


でもだんだんと距離ができて、

中学に入るとお互い話さなくなった。


私はクラスに馴染めなくて孤立した。

だから進学先には、地方の、知り合いが誰も行かない高校を志望した。


先輩にぎりぎり目をつけられない、短めなスカート。

第一ボタンは閉めずに、ゆるくリボンをつける。

アイラインはひかず、コンシーラーとシェーディングで彫りを深く。

仕上げは透明なマスカラ。


春休みにネットで調べ、雑誌を読み漁った成果をここで発揮する。

幸いにもどうやら私はメイクが好きなようで、

あれこれ練習するのはおもしろく、自然と技術も身に付いた。


おかげで高校ではそれなりにクラスの中心に位置するグループへ所属することが出来た。


でも話についていくのは大変だった。

元カレの話、今カレの愚痴。

クラスメイトや先輩の制服についての悪口。


聞いているだけで毎日疲れた。


たまに出るプチプラのコスメの話題が

唯一好きだった。


まぁ、悪口と違ってすぐにその話題は

終わってしまうんだけど。


高校デビューはできたけれど、理想とは程遠いい。

もっとこう、普通に彼氏や友達と楽しい話題を話したい。


そんなとき私は最寄り駅で、藤岡裕太と真島ひかりに

再会した。


いや、目撃したという方が正しいか。


ふたりは友人にしては近すぎる距離感で話しながら

電車が来るのを待っていた。


楽しそうだった。


裕太とひかりは、中学のときから付き合っているのではないかと

噂されていた。


私はふたりと疎遠になってしまっていたけれど、

裕太とひかりは中学でも仲が良かったから。


「付き合ってんじゃないの?」って

いつもふたりはからかわれていた。


そしていつも

「いや、ただの幼馴染だから」

って、笑っていた。


最初の頃は、ひかりが私の名前も出してくれていた。

「和子と裕太とは家が近所で、幼馴染なんだよ」

って。


でも私はクラスに馴染めていなかったし、

友達もいなかった。


「あー、和子……ちゃんって、2組の茂木さん?」

「うち、なに考えてるか分からないから、茂木さん苦手なんだよね」


そんな声が聞こえるのが嫌だった。

ひかりも説明するのが面倒になったんだと思う。

同じクラスで、たまに声をかけてくれていたけれど

クラス替えで違うクラスになってから、私たちは話さなくなった。


裕太とはもっと話していない。

裕太はたぶん、昔からひかりが好きだった。

目で追っていたし、裕太が幼馴染だと紹介するのは私じゃない。

いつもひかりだった。


だから今こうして、

ふたりが手をつないでいるのは、おかしいことじゃない。


ふたりには私が邪魔だったんだ。


その後、私は隣のクラスの軽そうな男子に告白された。

廊下の隅には彼と同じ野球部の人が、ちらちらこちらを伺っている。

こういうタイプは苦手だ。


いろいろ考えるのが面倒で、私は彼の告白をOKした。

彼がガッツポーズした途端、野次馬の野球部たちは

ニヤニヤしながら去っていた。


とりあえず、話しかけてこなくて安心した。


彼は女の子の扱いに慣れていた。

程よい距離感、程よいスキンシップ。

私以外の女の子とも話すけど、

距離はそんなに近くない。


顔はタイプじゃないが、軽そうな見た目とは裏腹に

すごく優しい人だった。


それなりに楽しいお付き合いをしていた。

野球部の彼女という肩書きは、私をスクールカースト上位に押し上げ

学校で孤立することはなかった。


でも、なんだろう。

ときどきとてもつまらないと感じてしまう。


はじめてキスをしたときだって、そう。

こんなものか、と思ってしまった。


彼は顔を赤くしていたけれど、

私の胸はときめかなった。


彼といても私の感情は揺れない。

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