第4話 仲間ができた
王都から戻り、ギルドに向かうと、そこにはあの女の子がおり、食べ物にがっついていた。
ボロボロに薄汚れた服も誰かが着替えさせたのだろう、ワンピース調の服になっている。
女の子が食事をしている机の上には、何枚も積み重ねられたお皿の山が出来ていた。
やけに視線を感じるのは、そういうことか。
だが、この小さな体のどこにこの量が入るんだ?
俺は女の子に近付き、話しかける。
「君、名前は?」
驚かせないように、声のトーンを落とし、女の子に話しかける。
「ふぁるひあでふ」
うぅ……。 今のは俺が悪かった。
口の中の物を飲み込んでから、話してもらえるよう伝える。
「ん……。 私はカルディア。 見ず知らずの私を助けてくれてありがとう」
カルディアと名乗った少女は、ここら辺では見ない綺麗な長い金髪に青い瞳を持ち、何でもかみ砕きそうな鋭い歯を持っていた。
「それでカルディアちゃん、はどうしてあんな森の近くにいたの? お父さんやお母さんは?」
「私ね、お父さんとお母さんの事、よく覚えていないの。 いえ、そこの記憶だけぽっかり穴が開いて抜け落ちちゃったような……。 気づいたら魔物と一緒の場所にいて、怖くなった私は夜のうちにその場所を抜けだしたの。 だけど、見張りの魔物に見つかっちゃって。 それから一生懸命走ってたらこの街にいたの」
一種の記憶喪失みたいなものか。
それにしても、両親の記憶がないのは辛いな。
俺の両親は海外出張に行ったっきり、海外が気に入ったらしくこっちには戻ってこないし。
だから、俺はあの家で一人で暮らしてたわけだ。
って、俺の話はどうだっていい。
今はカルディアの今後のことについて考えないと。
「ねえ、勇者様?」
カルディアが子供のように甘えた声で俺に言う。
「確かに俺は勇者になったけども、勇者って呼んでほしいわけじゃないんだ。 俺はホシミヤユウ。 気軽にユウって呼んでもらって構わないよ」
「では、ユウさんと呼ばせてもらいますね。 ユウさんはこれから勇者として魔王討伐に行かれるんですよね?」
まあ、それが勇者としての定めらしいからな。
引き受けた以上、やることはやらないと。
「そうだけど。 それがどうかしたの?」
「その魔王討伐に、私も連れて行ってはもらえないでしょうか?」
はあ!?
またこの子はとんでもないことを口走る。
子供の遠足じゃないんだし、俺が討伐するのはあの魔王だ。
スライムや小さな魔物と比べてもらっちゃあ困る。
「ちなみに、理由を聞いてもいいかな?」
「私は両親のことについて知りたいのです。 でも、一人では心細くてやっていけそうにありません。 しかし、ユウさんと一緒にいれば両親の事について何か分かるような、そんな気がするんです!」
ほう、これはまた大きな賭けに出たな。
俺といれば何か分かる。 そんな保証はどこにもない。
それでも、俺についていくというのか。
「本気なんだな」
「はい、私は何事も本気で取り組んできました」
カルディアの真っ直ぐな青い瞳に、俺は吸い込まれそうになる。
そんな姿勢に俺は根負けした。
「分かった。 一緒に行くことを許可するよ。 だけど、何があっても自分の身は自分で守ること。 俺も勇者になったばかりで、人の心配までできないかもしれない」
「承知の上です! 自分の身は自分で守る。 それくらい出来なきゃ、ユウさんについていけませんからッ!」
こうして、新たにカルディアという少女を迎え、共に魔王討伐を決意した。
ちなみにカルディアが食べた料理は俺の出世払いということに落ち着いた。
金額を見て、俺は開いた口がふさがらなかった。
もしかして、カルディアを仲間にしたのは間違っていたかもしれない。
「じゃあ、今日は明日のためにゆっくり休むか」
「そうしましょう!」
俺とカルディアは明日のために、適当に借りた宿で十分な睡眠を取る。
なんだかんだで勇者になってしまった俺だが、これから上手くやっていけるのだろうか。
翌朝。
宿を後にした俺達は魔王討伐のため、街を出ることになった。
魔王討伐なんていう大それた事が、そう簡単に行くとは当然思っていない。
俺は自分にできる限りの事をするだけだ。
街を出る前に教会のシスターさんに挨拶をしていこうかと思っていたのだが、不思議なことに無くなっていた。
おかしいな。 前まではここにあったのに……
「どうかしたんですか?」
カルディアが俺の服の袖を引っ張ってくる。
「いや、何でもないよ」
まあ、考えても答えは出ないか。
今は魔王討伐に集中しないと。
「よしッ! じゃあ、改めて出発だ!」
「おおおーー!!」
俺達は意気揚々と街を出た。
魔王討伐に向けて、俺達はより一層気合いを入れるのだった。
意気込んで出かけたのはいいが、この街唯一の移動手段の馬車が魔物の襲来によって壊されていた。
しかも、魔王城まで結構な距離があるため、さすがに歩いて向かうのは気が引ける。
何かいい案でもないものか、と思いながら俺達は歩いていた。
「そういえば、カルディア。 勇者の剣って知ってるか?」
ふと思い立ち、カルディアに聞いてみる。
勇者の剣なんだから、何かしらの言い伝えみたいなものはあるだろう。
「知ってるも何も知らない人はこの世にいないと言われるほど有名な話ですよ!」
そう言い、カルディアは昔話口調で話し出した。
「今から何百年も昔、この世界は魔王によって支配されていました。 人々はみな苦しみ嘆くことしか出来ませんでした。 このままではいけないと思った一人の青年が、一人で魔王を倒すと宣言したのです。 みんなはさすがに無理だ、諦めろと青年を説得しましたが、青年の目は本気でした。 青年は剣一本で魔王を倒しに一人で出かけたのです」
その青年とやらは凄いな。
俺には到底できないことだ。
「しかし、相手は魔王。 人間一人の力でどうにかなるような相手ではありませんでした。 そんな圧倒的不利な中、青年は諦めず何度も何度も深い傷を負いながらも魔王に挑み続けました。 長く続いた戦いの末、倒すことは敵わなかったものの、魔王を封印することに成功しました。 青年のおかげでこの世界は魔王から解放されたのです。 その功績を称え、その青年が持つ剣を勇者の剣として、青年が最後に息絶えた森の中に立てたのです。 次に魔王が封印から解かれるその時、新たな勇者が生まれるその時まで、勇者の剣はジッと力を蓄えているのだとか」
長々と話し終えたカルディアは、一つ息をつく。
「すみません! 長々とお話ししてしまい」
「いや、俺もあんまり詳しいことは知らなかったから。 ちゃんとした話が聞けて良かったよ」
落ち込みそうになるカルディアにフォローを入れる。
昔にはそんな勇敢な青年がいたんだな。
物思いにふけっていると、俺とカルディアの上を大きな黒い影が通り過ぎた。
その大きな影は、俺たちの前に降りてくる。
「ひ、ひぃ!!」
カルディアが女の子らしい声を上げて怖がる。
俺も全身に鳥肌が立つのを感じた。
それもそう。 俺達の目の前に全身が真っ黒のドラゴンがいたからだ。
威圧感が尋常じゃない。
体からあふれんばかりのオーラが出ているのを肌に感じる。
「お前が勇者か。 なあに、勇者が再臨したと聞いたものでな。 今一度手合わせ願いたい」
ドラゴンはそう言った。 確かにそう言った。
俺がこのドラゴンと戦うだって!?
そんなこと無理に決まってるじゃないか。
百万回やっても百万回負ける自信しか無い。
なぜかドラゴンの方は、俄然やる気のようだが。
「どうした? かかってこんのか? 勇者のくせに怖気づいたのか」
ドラゴンがこれでもかと煽ってきた。
カルディアは俺の後ろで隠れている。
ここは、魔王討伐の前哨戦と行こうか!
こうして、俺はドラゴンと真っ向勝負を始めることになった。
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