第3話 俺が勇者!?

翌朝。

目が覚めると頭もとでカサコソと音が聞こえた。

例の黒い虫がいるのかと思ったが、ここは異世界。

そんなもの、いるわけがない。


テントから出て周りを見回すと、邪悪なオーラを放つ穴を見つけた。

中を覗いてみると、何かが中で渦巻いている。

不思議に思い、しばらく中を見ていると中からニョキっと腕が出てきた。

それは人間のものではなく、その穴からぞろぞろと見たことのない生き物が出てくる。


その生き物は背中に翼を生やし、凶悪な顔をしていた。

もしかすると、こいつらが魔物なのか?

俺は突然のことに驚き、その穴から逃げるように走った。


穴から出てきた魔物に追われつつも、逃げ回ることに成功していた。

途中、足を掴まれたり、服を引っかかれたりしたが、どちらも命に関わるけがをしなくてほんと良かった。

何とか魔物たちを撒くことが出来、人通りの多い場所につく。

が、安心したのもつかの間、街にも魔物が出現しており、街は大混乱になっていた。

この街は平和じゃなかったのか?


そんなことを考えていると、一人の女の子が森の近くで魔物に襲われそうになっているのを発見した。

女の子は遠い場所から来たのか、服が汚れている。

ここら辺ではあまり見ない服装だ。


魔物が女の子に何か言っているようだが、遠すぎて聞き取れない。

女の子は魔物から逃げるように、森の奥へと追い込まれていった。


俺自身に何か力がある訳ではないが、困っている人を放ってはおけない。

俺は女の子の後をついていき、森に足を踏み入れた。


森の中は木々が鬱蒼としているだけで、特に変わったところはない。

静かで落ち着ける雰囲気で、時間があれば森林浴とかしてみたくなる。


そんなことを思っていると、森の奥の方から女の子の叫び声が聞こえた。

声を頼りに森の奥へ進む。


「見つけた!」


女の子を見つけたが、その子は手に持つ短剣をブンブン振り回しているだけで、魔物に傷一つ与えられていない。

魔物も、何をしてくるのか分からない者には、うかつに手を出さざるを得ないのだろう。


木陰から二人の眺めていると、魔物が女の子に襲い掛かった。

女の子は、嫌々と言うようにひたすら首を横に振っている。

女の子を助けるために何か戦えるようなものがないか、森の中を見回す。


そんなとき、森の中に不自然な岩がおいてあり、そこに一本の剣が刺さっていた。

その剣は、黒い刀身をしており、柄の真ん中には赤い宝石が一つハマっている。


こういう剣って、だいたい抜けないんだよな……

抜けないとは思いつつも、剣を握る両手に力を入れ、引っ張ってみる。


スポッ。


「へ?」


間抜けな音を立てて、その剣は簡単に抜けた。

抜けると思っていなかった。


「え、抜けちゃったんだけど……」


慌てて元の岩に戻そうとするが、刺さってあったはずの穴はどこにもない。

もしかして、抜いちゃいけない奴だったかな?

そんなことを思いつつ、


ふと気がつくと、魔物が女の子に乗りかかっていた。

さすがにやばいと思い、俺は手に持つ剣を魔物に向けて真っ直ぐ振り下ろした。


その剣を振り下ろした瞬間、とんでもない爆風が巻き起こる。

魔物に向けて振り下ろした剣は、周りの木々をなぎ倒し、魔物も消滅させた。


「ま、マジかよ……」


あまりの威力に呆然とする俺は、バカでかいことを巻き起こした剣を放っておいて、その場を去る。


だが、そんな俺をあの女の子が俺の服の袖を引っ張る。

その子の顔を見て、俺はこう思った。


この子は百人中百人が超絶美少女と呼ぶ可愛さだと。


その女の子は、俺のことを


「勇者様……」


と、呼ぶとそのまま気を失ってしまった。

俺が勇者だなんて、そんなことある訳がない。

さっきの魔物だって、あの剣がなければ倒せていなかっただろう。


とりあえず、気を失っている女の子を放ってはおけず、ひとまずギルドに連れていくことにした。

女の子を背負い、いざギルドに向かう。


「軽ッ!?」


あまりの軽さに俺は驚愕した。

まるで体重がないのかと思った。


ギルドに戻り、俺は女の子を休憩室で寝かせる。

そんな俺を長老が呼び止める。


「ユウさん、無事でしたか!」

「はい、長老も無事でよかったです」

「儂は魔物が現れた時、いち早く安全な場所へ避難させられたのじゃ。 もう少し儂に戦える力があれば……」


長老が残念そうに言うが、長老が死んだら元も子もないだろう。

そんな長老が俺の腰元に目線を向ける。


「おや? その剣はまさか勇者の剣ではないのですか!?」


長老が驚きを隠せない声で言った。

俺の腰元には森に置いてきたはずのあの剣が下がっていた。

どうしてここに!?


「まさかユウさんが勇者様だったとは! 御見それしました! これはいち早く王様にお知らせをしないと! ついてきてくれますよね、勇者様?」


半ば強引に長老に引っ張られ、馬車に乗せられる。

詳しいことは王様の口から聞いた方がいいと言われ、俺は言われるがままに馬車に乗った。


たった一本の剣でこんなことになってしまうなんて思ってなかった。

まあ、今はあの女の子の方が気になるんだが……


長老と馬車に揺られること小一時間。

王都のような所についた。

やはり王都と言われるだけあり、人の数も多く、全ての建物が大きい。

そんな王都でも、やはり魔物が現れているらしく、兵士たちが対応に追われていた。


状況を説明した長老により、王兵に連れられ、俺は玉座の前で立ち尽くしていた。

今、目の前には立派なひげをこしらえたおっさんがいる。

雰囲気からとてつもないオーラと威厳を感じたので、この人が王様で間違いないだろう。


「お主がユウか。 ふむ、確かに腰に下がっている剣はまごうことなき勇者の剣であるな」


王様は、俺の腰の剣を見ながら言う。

違うんです、これは何かの間違いなんです!

俺はただその剣を抜いただけで、勇者なんて言う立派な者ではないんです!

この腰の剣だって、見つけた森に置いてきたはずが、なぜか俺の腰に下がってて……


なーんてことを考えている間に、王様は一人勝手に話を進める。

今はとてもそんなことを言える雰囲気ではない。


「ユウ、お主には復活した魔王を討伐してほしいのじゃ」


待て待て待て。 何やら壮大なことになってきたぞ。


「この国に魔物が現れたのは何百年も前に封印された魔王が復活したからじゃ。 そして、ユウが持つその剣は勇者にしか抜けない伝説の剣。 その剣を抜いたユウになら、いやユウにしか魔王は倒すことができない。 どうか頼む。 この国を救ってはもらえないだろうか」


王様は深々と頭を下げた。

それはそれは丁寧に。


俺は目の前で襲われそうになっている女の子を助けるためにこの剣を抜いただけであって、決して勇者になろうとか、そう言った気持ちで抜いたわけじゃあない。


だが、実際この件は勇者にしか抜けないらしい。

その剣を抜いたということは、勇者としての責務を果たすしかない、ということか。


そんなことを考えている間にも、王様はずっと頭を下げていた。

どうやら俺が承諾するまで頭を上げないつもりのようだ。

俺は小さく息を吐く。


「分かりました。 魔王討伐、このホシミヤユウが必ず成し遂げてみせます!」


その言葉を聞いて、頭を上げた王様はホッと胸を撫でおろした。

それだけ、魔王というのは狂気的な強さなのだろう。


「引き受けてもらい感謝する。 ユウが憎き魔王を倒し、この国を救ってくれることをここで待っている。 国を代表させて言わせてもらおう」


こうして俺は、勇者として魔王討伐という重大任務を任された。

問題は、この勇者の剣が俺にどこまで制御できるのかということ。


勇者の剣と呼ばれるほどなのだから、先代の勇者が使った何かしらの名残が残っているかもしれない。

そんな剣を、果たして俺みたいな凡人に扱うことができるだろうか。


王都から戻った俺は、助けた女の子の様子を見に行くことにした。

誰かに悪いことされてないといいけど……

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