完結!【 2000pv越え大感謝!】転生勇者は異世界ライフを満喫中、もちろん世界は救いますよ?
モリワカ
第一章
プロローグ
俺は高校二年生。
特に変わり映えのない毎日を過ごしていた。
何も感じることのない授業を淡々とこなす日々。
毎日が退屈で憂鬱で仕方なかった。
そんな今日はバイトの給料日。
さすがの俺も浮ついた足取りで銀行に向かう。
「いくら入ってるかな~」
今から楽しみで仕方がない。
俺が入った銀行には、俺以外にもたくさんの人がいた。
子供の手を取りながら、機械を操作するお母さん。
音楽を聞きながら、ATMに向かう男の人。
今日が給料日なのか、ものすごい笑顔で銀行に入ってくるおじさん。
みんながみんな、したいことがあってこの場所にいる。
俺も機械の前に立ち、カードを入れた。
軽い電子音が銀行内に響く。
そんなとき、俺の体の下半部に何かを押し付けられた。
こんなところで痴漢か?
最近は俺なんかにも関わってくる変な奴もいるんだな。
だが、さすがに注意しようと俺は静かに後ろを振り向く。
「騒ぐな。 殺されたくなければ、そのままおとなしく両手を上に上げろ」
後ろを向く前に、男が俺に一丁の拳銃を突き付けていることに気づいた。
痴漢じゃなかった、痴漢なわけないか。
俺は殺されたくないので、ゆっくりと両手を上げた。
強盗を刺激すると、ろくなことにならないのはバカでも分かる。
そう、銀行内にはいつの間にか強盗が入ってきていた。
強盗は全員で五人。
全員が覆面で顔を隠しており、素顔は分からない。
ただ、悪いやつなのは俺でも分かった。
銀行内にいた人は後ろで両手を縛られる。
銀行の職員が強盗に拳銃を突き付けられながら、指定したカバンに金を詰め込んでいく。
銀行の職員も俺たちも、ただただおびえることしか出来なかった。
そんな強盗を見て、勇気ある一人の女の子が強盗に言い放つ。
「あんた達ねぇ! 今時、銀行強盗なんて古いのよ!」
そう叫んだのは、一人の女子高生。
制服からして同じ高校のようだが、顔は見たことがない。
俺と同じくバイトのお金を下ろしに来たのだろう。
こんな状況で言うのもなんだが、俺の好みドストライクだ。
その女子高生はそう叫んだものの、足は生まれたての小鹿のようにプルプル震えていた。
怖い、何で言っちゃったんだろうと後悔しているところだろう。
「ああん? 嬢ちゃん、今なんて言った?」
女子高生が思ってもいないところで強盗を刺激してしまったようだ。
なんてことをしてくれたんだ!
それでも正義感があるのか、女子高生の口は止まらない。
「銀行強盗する暇があるなら、ちゃんと働いて稼ぎなさいよ! 大の大人がそんなことしてみっともないと思わないの!?」
一瞬、銀行内の時が止まったかのように思えた。
その女子高生は、息を切らしながら言う。
女子高生の額から、一粒の汗が落ちる。
リーダーらしき人物が、肩を震わせながら叫び散らす。
「ガキがなめた口きいてたら、ぶっ殺すぞコラァ!!」
パァン!!
リーダーの男が逆上し、天井に発砲した。
「ひぃい!!」
銀行内に小さな悲鳴が響く。
小さな子供がビックリしたのか泣きだす。
この状況には、さすがの女子高生もたまらず顔を伏せる。
「ああああああ!! うっとうしい!! お前のせいで俺たちの計画がめちゃくちゃだ! 子供は泣くし、お前みたいなガキに説教までされる。 お前さえいなければ……!」
男が、女子高生の服をつかむ。
女子高生は聞こえるか聞こえないくらいの声で悲鳴を上げた。
そのまま男は、女子高生を壁に押し付ける。
そして、女子高生の眉間に拳銃を突き付けた。
「お前さえいなければ、俺達は安全に金を奪い逃走するつもりだった。 だが、これを見ろ! お前が俺達に口出しするから、全てがパアだ! この責任はどう取ってくれるんだろうな?」
女子高生は怖いのか、口を固くつぐんだままジッと耐えていた。
このままだと、この子は殺されてしまうかもしれない。
俺とは今日初めて会った他人だが、それでも人が目の前で死ぬのは見たくない。
「俺は他の奴らと違って、容赦はしねえ。 静かにしていれば、もう少し長生き出来たかも知れねえが、そんなこと今さら後悔しても遅いんだよッ!」
男が拳銃の引き金に手を当てたのを見た俺は、後ろ手にくくられたまま男に突進していた。
思いもよらない行動に出た俺に、男はバランスを崩し倒れる。
「てめえッ! 何しやがるッ!!」
男は即座に立ち上がり、何も出来なくなった俺の腹を蹴とばした。
急な衝撃を受け、俺は声にもならないうめき声を上げる。
「こいつ、お前の知り合いか?」
男が女子高生に聞くが、女子高生は首を横に振る。
どうやらこの子も俺のことを知らないようだった。
「そうか。 じゃあ、遠慮せずにッ!」
パァン!
男は俺の胸元に発砲した。
目線を下に下げると、俺の胸元に小さな鉛玉が刺さっていた。
「どうして、私のために!?」
女子高生が俺に駆け寄ってくる。
近くで見ると、その可愛さがより目立つ。
守った女子高生の問いかけに、痛みと熱でどうにかなりそうなのを必死に抑え、答える。
「君を助けたかった、ただそれだけだよ」
こんなこと自分で言っといて、なんだか恥ずかしくなってくる。
俺のお気に入りの服が赤く染まっていくのが分かる。
対照的に俺の顔からは血の気が引いていく。
俺の命が長くないのは、誰がどう見ても明らかだった。
ああ、死ぬんだな。 俺は死ぬんだ。
憂鬱で退屈で大して面白くもなかった人生だったが、こうして終わりを告げられると、途端にむなしく、悲しく思えてきた。
怖い、のかすらも分からない。
ただ、今まで感じたことのない不思議な感覚だった。
遠くから、微かにパトカーのサイレンの音が聞こえる。
どうやら、職員の誰かが通報してくれたのだろう。
銀行強盗の奴らが口々に喚いているが、もう死ぬ俺には関係のないことだ。
どっちにせよ、俺は助からない。
俺は自らの死を受け入れ、ゆっくりと目を閉じた。
(最後に見た顔が、俺の好みで良かった)
俺は心の中でそう思った。
こうして俺、星宮勇は十八という短い人生を終えた、はずだった。
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