犯罪者にとっての不運は

犯罪者にとっての不運は

『博士（ドクトル）と教え子の学生さん達には、仕事を手伝ってもらい感謝しています』

『私の根元魔法の講義を受講している七名は、学園創設以来の俊英が揃っていますので、私としても教導（きょうどう）のし甲斐がありますから。隊長♪』

街の治安を担う警備隊の隊長室で話しをしている、温和な笑みを浮かべている博士（ドクトル）は、街の誇りでもある学園で根元魔法の講義をされているが。内容が極めて高度な上に付いて来られない受講生は置き去りにして一切顧みない教育方法を貫いているので、高難関な入学試験を突破して学園に入った学生さん達の中から、更に選別された少数精鋭の教え子しか講義を受講していない。

『教え子の学生さん達の中では、やはり一番気に入っているのは金髪（ブロンデス・ハール）の彼ですか？』

昨年の夏に俺が率いる警備隊と共に海賊（ゼー・ロイバー）退治を行った際に、大活躍をした若い魔法使（マーギアー）いでもある教え子の事を博士（ドクトル）に訊ねると。

『金髪（ブロンデス・ハール）の彼は天から非常に優れた根元魔法の素質を授かった上に、向上心が強い十四歳の若者でもありますが、同時に年長者に対する礼節を常に弁える希有な特性の持ち主でもありますね♪』

街の治安を担う警備隊を指揮する立場で学んだ事の一つに、特定の分野で秀でている人物は他の分野で劣っている奴が多いという実体験だが。

『博士（ドクトル）のお気に入りの金髪（ブロンデス・ハール）の学生さんは、天から根元魔法の素質を授からなかった警備隊の隊員に対しても、非常に丁寧に接してくれています』

昨年の夏に海賊（ゼー・ロイバー）退治を共に行うまでは、単に年長者の機嫌取りが上手いだけの学生さんかと思っていたが。

『彼は犯罪者に対しては、情け容赦の無い性格をしていますからね。隊長♪』

海賊（ゼー・ロイバー）に対して行った金髪（ブロンデス・ハール）の学生さんによる殲滅戦（フェアニヒトゥング・フェルトツーク）を見た後は、三日間食事が喉を通らなくなった。数多くの交易船を襲い多数の命を奪って来た海賊（ゼー・ロイバー）が相手とはいえ、人間があそこまで非情に徹し切れるとは信じられない思いがした。

『参事会により統治をされる、法治主義を重んじる文明社会の闇で暮らす犯罪者からしますと。学園に入学する為に私の自慢の教え子でもある金髪（ブロンデス・ハール）の彼が街に移り住んだのは、アンラッキー７としか言い様が無い不運な出来事でしたから♪』

お気に入りの教え子でもある、金髪（ブロンデス・ハール）の学生さんの事を満面の笑みを浮かべながら楽し気に話す博士（ドクトル）に対して、俺も心の底から同意をしながら頷いて。

『同感です。博士（ドクトル）』

犯罪者にとっての不運（アンラッキー）は、警備隊の隊長として街の治安を担う俺からすれば幸運（ラッキー）だ。これからも博士（ドクトル）と教え子である七名の学生さんの力を借りながら、街の悪党どもにはアンラッキー７を繰り返し味あわせてやるつもりでいる。