俺だけが不幸な結婚式

才式レイ

本編

 忘れもしない。

 六年前の7月7日の夜7時に起きた、あの最悪な結婚式のことを。


 新郎とは大学の先輩で、彼が結婚すると聞いて急いで披露宴に出席。出席者の中に同じ大学仲間と話し込んでいると、突然相手にこう言われた。


「なんか私達、見られてない?」


 そこで俺は彼の言うことに初めて気付いた。なんでか新婦側の両親や友人たちがこっちの方を見てちらちらざわざわひそひそするので。なんだろう、嫌な感じだなぁ、と思って視線をスルー。

 けれど、友人と話し込んでいる途中で、新婦のお母さまがこっちに接近。


「ちょっと失礼するわね」


 初めて会った時はなんて気品のあるお母さまだと思った。


「ごめんなさい、貴方とは話がありますの。ですので、わたくしに付いてきてくださる?」


 人生初めてこんな上品な言い方をされれば、男であれば誰だって付いていくのだろう。会場から廊下に連れ出されて、そこで話を聞くことになった。どうやら、新婦の前彼氏に俺がうり二つだったらしい。

 こんな話あるか?、と当初は疑ってはいたが。よくよく考えてみると、世界には自分と同じ顔がする人間が三人がいる、という話があるぐらいだし、あり得るかもなーと納得した。

 とりあえず、免許証を見せて全くの別人だということを証明。けれど、新婦も俺を見て動揺するかもしれないからトラブルになる前に急病ということにしてくれ、と退場させられた。美人の中に棘を飼ってあるんだな、としみじみ思った。


 その後、新郎から心配と何があったのかという勘繰りのルインが来たが。事情を聞かされていないっぽいので、どうやって返信しようと悩むことに数分後。

 『急に調子が悪くなったので、大事な式中に迷惑かけたらそっちの方が大変だと思ったから本当に申し訳ない』と返したけど、果たしてその後はどうなったのやら。暫くしてから、大学仲間にさり気なく探りを入れたけど、いつも肝心なところではぐらかされたばかりで、結局何も分からずじまい。

 式自体は滞りなく済んだ上に料理は物凄く美味しかったようだ。お祝いもできなかった上にご飯一口も食べられなかった俺が不幸な結婚式であった。

 先輩、あの日の不運を全部俺が背負うから、その代わりに絶対に幸せになってくれ。

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俺だけが不幸な結婚式 才式レイ @Saishiki_rei

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