運の天秤

プラ

運の天秤

 どうやら私は死んだようだ。目の前で顔を覗き込んでくる天使を見ながらそう思った。


「スキルを確認しますね」


 どうやら、現世での名前はここでは役立たないようで、神から与えられたスキルによって判別するらしい。


「えっ、まじか!」


 私のスキルを確認していた天使が驚いた。


「皆、来いよ!この人、あのスキルを持っている奴だぜ!」


 途端に、私の周りにたくさんの天使が集まってきて、なぜか盛り上がっている。

確か私のスキル名は、アンラッキー7だった気がする。スキル名は分かっていたが、実際の能力が分からず最後まで使用する機会がなかった。ないものと考え生きていたこともあって、すっかり忘れていた。


「俺たち、君のスキルのせいで大変だったんだぜ」


 ある天使が言った。その言葉を聞いて私は自分のスキルについて気になった。


「私のスキルはどんなものだったのですか?」


「あれっ、気づいてなかったの? 自分にかかる大きな不幸を7つ回避するスキルだよ」


 私はそれに疑問を覚えた。


「不幸は回避した記憶はないですよ。だって私の妻は盗賊に……」


「あぁ、あれは君が殺されるところだったんだよ。それを無理やり回避するために無理やり妻を襲わせたんだよ」


「はっ……?」


 私はその言葉を理解するのに時間を要した。その間も、ワイワイと話す天使。


「大変だったんだよ。君にふりかかる不幸、どれも回避するのが難しすぎるんだよ。ほらゴーレムの時なんか、無理やり他の冒険者をバッティングさせたり」


 盛り上がっていく天使たち。


「やっぱり一番難しかったのは、ドラゴンだよな!」


「そうそう、あれ、ドラゴンの腹を満たすために、町三つくらい壊滅させないといけなかったよね」


 私は理解できなかった。いや、理解しようとしなかった。妻の顔が浮かぶ、泣き叫ぶ人たちの情景が浮かぶ。

 私はすぐに痺れるような絶望感に支配された。


 そんな時だった。また新しい天使が顔を出して、


「早くしてよ。次の人が詰まってるんだけど」


 と愚痴を言った。


「いけね。じゃあ、急がないと」


 周りの天使たちはすぐにどこかへ行き、もともといた天使だけが残った。天使はゴホンッと咳き込むと、


「君は覚えてないと思うけど、生まれ変わる時に今の自分のスキルをそのまま継承することが出来るんだよね。君は継承するでいいよね」


「……はっ? ……どうして」


「えっ、だって君もう何回もスキル継承してるじゃん」


 天使はすっとんきょうな声を出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

運の天秤 プラ @Novelpura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ