不運の果てにあるモノ

真偽ゆらり

確定せし不運が見せる未来

「危ない!」


 強い風が吹いて船の積み荷が崩れ、空を進む船から落ちる積み荷の先に女性の人影があった。風が吹き荒び、船の航空機関が轟音を立てている空から思わず叫んだ船員の声が届くはずもない。


 碧の艶が反射する黒髪の美女は不運にも空からの落下物で儚くも短い生涯を終える――ことは無かった。


「え……」


 その一部始終を見ていた船員から驚きの声が漏れる。

 落下物の影を視認するよりも前に彼女は避ける動きを取っていた。


 優雅に七歩、右へ。


 余裕をもって動くその様子は空から船の積み荷が落ちて来ることを予め知っていたのではないかと見ていた船員に思わせるには十分だった。


「ま、まさか彼女は……」


 そして船員の脳裏によぎる、積み荷の届け先のこの島に詳しい同僚から聞かされた噂。


 それは『未来視の魔女』『不運と踊る美女ハードラックダンスレディ』『不幸領域アンラッキー7』などと呼ばれている。

 不運に巻き込まれる覚悟無き者は近づいてはならない。

 もし目が合ったなら、その日は用心して過ごすこと。


「しまっ――!?」


 目が合った。


 少なくとも船員はそう認識したらしい。


 手を振り「気を付けて」と口が動いているように見えたと後に語る船員の意識はそこで途絶える。船が乱気流に捕まった揺れで更に崩れた積み荷によって。




「えぇっと~、後ろを指差すべきだったかしら」


 肘を組み頬に手を添え、柔らかな大きな膨らみを歪ませながら彼女は悩まし気な声をあげる。だが、その間も彼女の歩みは止まらない。


 時に左右へ、不規則に揺らぐ軌跡で。

 時に緩急をつけて、踊るように。


 もし彼女が普通に歩いていたら通っていた場所には空から鳥のフンが落ち、気難しそうな猫の尾や機嫌の悪い犬の尾が揺れていた。


 常人ならフンを浴び、犬猫に追いかけられていた? 否。常人なら運が悪くない限り、そんな目に合わない。


 そう、有り体に言って彼女は絶対的に運が悪い。


 不運が確定しているが故に彼女には未来が分かるのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

不運の果てにあるモノ 真偽ゆらり @Silvanote

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ