【KAC20236】金庫が開くとき

小龍ろん

金庫が開くとき

 世界に突如出現するようになったダンジョン。その内部は、人類がこれまで常識としてきた理論・法則が通用しない特殊な空間となっている。各国はダンジョンを危険領域として立ち入りを禁じたが、それでもダンジョンに魅せられる人間もいる。


 ショウとカズキも、無鉄砲なダンジョン探索者である。二人は、これまで数度のダンジョンアタックを試みたが、何の成果も得られていなかった。


 ある日のこと。ダンジョン探索が長引いて真夜中となった帰り道、彼らを謎の地揺れが襲う。それはただの地揺れではない。ダンジョン発生の前触れだったのだ。抗うことすら出来ず、彼らはダンジョンに飲み込まれてしまった。



◆◇◆



 行く先を阻む暗闇。襲い来る魔物たち。それらを退け二人は進む。途中で幾つかの階段を上った。地上は確実に近づいている……はずだ。


 階段を上る度に、魔物は強くなる。それでもどうにか切り抜けられたのは、途中で拾うアイテムのおかげだった。


 初めて拾うアイテムは識別されていない状態で、効果が不明だ。だが、一度でも使えばその効果が判明する。効果的にアイテムを使うことで、強敵相手でもどうにか対処することができた。


「この仕様がわかっていなかったら、ここまで上って来れなかっただろうな」

「つまり、俺のおかげッスね! もっと褒めてもいいッスよ?」

「否定はできないが……褒めるのは無理だな」

「なんでッスか!」


 カズキは最初に拾った謎のアイテムを自身に使った。それが仕様の判明につながったのは事実だ。とはいえ、普通ならどう考えても無謀な行動。調子に乗って、同じようなことを繰り返されては困る。それがショウの考えだ。


「ん、何スか? これ」

「金庫に見えるな」

「そうッスよね」


 彼らが進むダンジョンはいくつかの部屋とそれを結ぶ通路で構成されている。やや大きめの部屋で見つけたのは、鉄の箱だった。箱の正面は扉のようなものが取り付けられていて、その隣には四桁のダイアルと一つのボタンがある。


「もしかして、お宝っスか?」

「だといいが……そもそも開け方がわからんぞ。ダイヤルを適切な数値にすればいいんだろうが」

「適当に回してみればいいッス! 四桁なら10000通りっス!」

「まあ、そうなんだが、失敗したとき何が起こるかわからんからな」


 ショウが考えているのはトラップの可能性だ。不正解の数字を入力すると、何らかのペナルティが発生するというのはお約束である。


「そうッスね。でも、虎の穴っス! 虎はいらないッスけど、宝は欲しいっス!」

「虎穴に入らずんば虎子を得ずってことか」


 向こう見ずな発言だが、カズキの言葉は正論でもある。未知のダンジョンに挑んでいるのだ。リスクをとらずして、リターンを得るなどと甘い考えでは何も掴めない。


「……わかった。試してみるか。だが、開けるのは俺がやる」

「おぉ、兄貴! 漢ッスね!」


 アイテムの識別についてはカズキが体を張った。ならば今度はとショウは自身がリスクを引き受けることにしたのだ。


「とはいえ、0000から回していくのは大変だな」

「じゃあ、適当な数字をいれてみるッスか? ラッキーセブンで7777とかどうッス?」

「……ま、試してみるか」


 特にあてがあるわけでもないので、カズキの提案に従い、ショウはダイアルを全て7に合わせた。その状態でボタンを押すと、突然、部屋に警報ブザーのような音が響く。


「何スか? 当たりの合図ッスか?」

「いや、この音は外れだろ!」


 ショウが叫ぶようにツッコミをいれた直後のことだ。部屋の隅に複数の魔物が滲み出すかのように、じわりと姿を現した。


「化け物っス! 全然ラッキーじゃないッス! アンラッキーセブンッス!」

「まあ、適当に入力したんじゃ、こんなもんだろう」


 出現した魔物は全部で十匹。卵に手足が生えたような姿であまり強そうには見えない。


「あの数字は何っスかね?」

「さあな。順番に倒せってことか?」


 卵の魔物には、それぞれ1~10の数字が書かれている。ショウはそれを倒す順番の指定だと推測した。その言葉に従い、カズキは1と書かれた卵型魔物に金属バットをお見舞いする。が――……


「あれ、めちゃくちゃ脆いッス。雑魚ッスね!」

「待て、また出てきたぞ」


 カズキの攻撃は、一撃で卵型魔物を粉砕した。あっけない撃破だ。だが、楽観するには早い。なんと、カズキが魔物を撃破した直後に、新たな魔物が出現したのだ。その魔物にも1と書かれている。


 それから、二人は襲いかかってくる魔物を何度も倒した。しかし、その都度、魔物は復活する。


「もしかして、無限ッスか!?」

「いや、4だけは再召喚されないときがあるな」

「でも、今はいるッスよ!」

「10匹そろっているときに、4を倒すと再召喚されない。そのあと別のを倒すと一緒に再召喚されるっぽいな。倒す順番があるというのは間違いじゃなかったか」


 正しい順番で倒せば魔物は再召喚されない。ショウは、そう考えた。その推測を裏付けるかのように、4の魔物のあと、2の魔物を倒しても、それらは再召喚されなかった。


「いけそうだな!」

「いや、でもコイツら脆過ぎるッスよ! 勝手に転んで壊れていくッス」

「アイテムを使うぞ! 粘着液だ!」

「了解ッス!」


 アイテムを使い、動きを封じる。それで、どうにか順番通りに魔物を倒すことができるようになった。4、2、1、9と魔物を倒した瞬間、残りの魔物たちも消える。


「あれ、消えたッス。まだ四匹目ッスよ」

「そうだな。四つのダイアルとこの数字の並び……偶然か?」

「もしかして、金庫の鍵ッスか?」

「そうかもしれん。もしかしたら、またあの卵が出てくるかもしれんが……」

「もう倒し方はわかったッス。出てきたらまた倒せばいいッス!」


 魔物を倒す順番に並べた数字――すなわち4219が金庫を開ける鍵だと考えた二人は、もう一度、金庫の解錠に取りかかった。ダイアルを合わせ、ボタンを押すと、カチリと小さな音。ブザーはならない。


 お宝は目前だ。

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