朝幽霊のナナ
卯月
幽霊と俺の777(スリーセブン)
俺は
どうも俺はおかしな高校に入学しちまったらしい。
どうおかしいかっていうと、出るんだわ。女の幽霊が。
それもどういうわけか朝の登校時に。
幽霊って夜に出るものじゃないのか?
なのにこいつはまぶしく太陽が降りそそぐ朝に出てきやがる。
こいつは
こいつは校舎の一階か、あるいは正門やグラウンドといった地上部分にしか現れない。
こいつはいつも弱々しい顔で生徒たちを見つめている。
はじめて見た時は正直、怖くてしかたがなかった。
だが何度も見るうちに俺はすっかり慣れてしまったよ。
なんせメッチャ弱そうなんだもん。
幽霊のくせに早朝出勤(?)なんてするものだから、今にも
こいつは一体なんなんだろう?
気になってしかたがなくなった俺は、思い切って話しかけてみることにしたのだ。
入学式にはじめて発見した時から数えて七回目。
今朝の朝幽霊は、校門の横に立って通り過ぎていく生徒たちをチラチラと見ていた。
(誰か私に気づいてくれないかなあ……)
なんていう心の声が聞こえてきそうな表情をしていた。
フーッ。
なんかため息が出た。
怖いどころか、むしろこいつは……。
「おい」
俺の声にピクッ、と反応する朝幽霊。
だが周囲をキョロキョロ見渡し、他に人がいないかを確認しはじめる。
ああ、
「お前だお前、朝幽霊のお前に話しかけてるんだ」
朝幽霊は大きく目を見開いて、自分の顔を指さす。
「そう、お前」
はじめて自分が見える相手に出会えたのだろう。
朝幽霊の目から大粒の涙がポロポロとあふれ出した。
彼女は泣きながらこれまでのことを話し出す。
彼女の正体はなんと――。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
それから数か月がたった。
初夏の汗ばむ陽気の中、俺は病院へお見舞いに来ている。
「ようナナ」
「あっ、七峰くん」
ベッドの上で教科書を読んでいた女子が、パアっと明るい笑顔になった。
この女子の名は広尾ナナ。
朝幽霊の『本体』である。
他校の制服を着た謎の朝幽霊。
その正体はなんと『入学直前に事故に
生霊といってもナナの本体は一ヵ月ものあいだ意識不明の重体であったらしく、放置していたらどうなっていたか分からない。
気がついたらナナの
しかし誰にも自分の姿は見えないし、家に帰る方法もわからない。
校内に関しても見覚えのない場所には行けなかったらしい。
受験をおこなった校舎の一階部分。
お昼ご飯を食べたグラウンドのベンチ周辺。
そして合格発表を見て歓喜した校門周辺。
この三つ以外の場所には移動できず困っていたのだそうな。
出会ったその日から俺は教師や事務局にかけあって、ナナの住所や連絡先を教えてもらった。
そしてナナの本体が入院中だということを突き止め、俺が生霊のほうを手で引っ張って行って両者をくっつけたらめでたく復活した――というわけ。
「……にしてもこんな所でまで勉強なんかしなくてもいいだろ。
せっかく休みなのに」
「ダメだよ。二学期からあたしも学校に行くんだから」
ナナはもうすぐ退院する。すぐ夏休みにはいるのでリハビリ期間ということにして、復学は9月からの予定だ。
「ん? なんだそれ?」
俺はナナの教科書に書かれた謎の数字に気がついた。
777、スリーセブンだ。
「うふ、これはねえ『ナナが七日目に七峰くんに会えた』っていう
今度はユーレイじゃなくて本当にあの学校に通うんだから。
七峰くんといっしょに!」
「やれやれ、声をかけたのが運の尽きか」
「ぶー、そういう言いかた好きじゃない」
ふくれるナナを横目に、俺は教科書の『777』を見つめ、軽い気持ちで思いついたことを口にした。
「ふーん、ナナが7日で七峰ね。
そういや『七峰ナナ』って上から読んでも下から読んでも『ななみねなな』になるんだな」
「えっ……」
ナナは顔を真っ赤にした。
しまった。俺は今なにを口走ったんだ。
「なっ、なに赤くなってんだよ! ちょっと思いつきを言っただけだろ!」
「人のこと言えないじゃん! そっちだって真っ赤だよ!」
「ああもう俺、帰る! またな!」
思わず逃げるように病室を飛び出した。
なにやってんだ俺は。
まったく、あの時話しかけたのが運の尽きだ。
朝幽霊のナナ 卯月 @hirouzu3889
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