雨に唄えば
大河かつみ
「おうし座のあなたの今日のアンラッキーナンバーは”7”。アンラッキーアイテムは”傘”です。もし、その二つが重なったら~。」
(重なったら?)
「下手すると死んじゃいます♡アハ!」
コーナー司会の女の子の明るく可愛い物言いとは逆に、俺は暗く嫌な気持ちになってテレビの電源を切り、会社へ行くために家を出た。
春の番組改編でリニューアルした朝のニュースワイドショーはネガティブな情報でいっぱいだった。明るく楽しいニュースより、どうしたって深刻な話題の方が気になって、つい見てしまう。視聴率を取るための手段なのだろう。そして、この「今日の占い」のコーナーも、シンセサイザーを使った不協和音を流して、充分に不安を煽りながら、星座ごとにネガティブな情報ばかり伝えるのだ。占いなんて・・と思いながら、つい見てしまう。見なきゃいいのだが、やはり気になる。そう、俺は人一倍、心配性なのだ。
この日は一日中、”7”という数字を意識的に避けた。通勤に使う電車の七両目に乗るのを避け、会社でもセブンスターの煙草を愛煙している同僚とは会話をしなかった。
昼食でも780円のカレーより980円のカツカレーを選んだ。
そのおかげもあってか、何もなく無事に一日を過ごし家路につけた。だが、電車から自宅のある駅に着いた途端、雨がポツポツ振って来た。
「しまった。天気予報で、夕方から大雨って言っていたっけ。」俺は折りたたみ傘を携帯していなかったことを悔やんだ。
雨はどんどん本格的になり、やがて大雨となった。遠くで落雷の音もする。駅の売店に行くもビニール傘は既に売り切れていた。
(仕方ない。駅前にコンビニがあったはずだ。そこへ行こう。)
雨に濡れながら走ってコンビニに行く。その時、アッと思った。(思いっきりセブンじゃないか!しかも傘って!)だが、さほど大きくないこの町の駅前には他の店はないのだ。(どうする?どうする、俺?買うか。でも“下手すると死にます”とまで言っていたぞ。どうする⁈)
「アイム、シン~ギン・ザ・レイン。ジャストォ、シン~ギン・ザ・レイン♪」
俺は結局どちらの選択が正しいのか分からなくり、セブンでビニール傘は買ったものの、傘はささずに帰るという自分でも謎の行動をとった。土砂降りの雨に濡れながらも「雨に唄えば」を陽気に唄い、軽やかな気持ちで歩いて帰ったのだった。
雨に唄えば 大河かつみ @ohk0165
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます