777人目の勇者

真坂 ゆうき 

第1話

 俺は自分で言うのも何だが、前世は平凡を絵に描いたような男だった。


 学校の成績も平均点くらいなら足の速さもクラス平均丁度。そこそこの大学を出てそこそこの企業に就職し、程々の給料をもらっては休みの日には競馬で勝ったり負けたりを繰り返す。収支はやっぱりトントンだ。夜にはコンビニに寄ってお気に入りの缶ビールとおつまみを買い、御贔屓のプロ野球チームの勝った負けたに一喜一憂する。彼女は出来たり別れたりの繰り返しだったが、それなりに人生は楽しんでいた。


 そんな俺が、いつものコンビニに寄ろうとした時に突っ込んできた自動車に撥ねられて死んだ。本当にあっという間の出来事だったように思う。

 気が付けば自分の体が光り輝いて浮いている。目の前には階段。あぁこれがあの世への片道切符って奴か。まあ何も良いことはしていないが、悪いことも特段していない。普通に天国には行けるだろう。そう思って俺は階段を昇って行ったんだ。


『何だまた転生者か。お前は777人目か。ラッキーナンバーのようじゃから、特別に勇者としての称号と、有能なスキルをたっぷりとつけてやろう』


 謎の声が響き渡り、俺は違う世界で777人目の勇者として生まれ変わった。

 前世と違い、頭は切れて力は岩を素手で砕けるほどある。お金には全く困らないし、伝説の聖剣やらのレアアイテムもアホみたいに手に入ってしまう。どこに行っても勇者様、勇者様と持て囃されて、当然女にも持てまくる。世界を困らせている魔王討伐に出てみれば、そこらへんにいる魔物はおろか、肝心の魔王ですら俺の敵ではなかった。


 こんな力を手に入れられて、確かに俺はラッキーだった。我が世の春を謳歌した。

 だが、何年もこんな生活を続けていくうちに何かが足りない、と思ってしまったのだ。正しくは、何もかも満たされているのに何かが違うという違和感。


 そうだ、俺は昔の生活が好きだったのだ。何もかもが無くても、それでよかったあの頃の生活が。俺は元の世界に帰りたいと望んだ。でも俺は『勇者』で、世界の希望だから、そんなことは出来ないと『あの声』に却下されてしまった。試しに自分の剣で自分を刺してみたらあっという間に傷が全快してしまった。俺は老いて死ぬまで完全無欠のヒーローとしての自分を演じないといけなくなったのだと悟った。俺は気が狂いそうになった。だが、俺の持つスキルが狂人と化すことも許してくれなかった。


 俺のその誰にも理解されない苦しみは、777人目の魔王が召喚され、相打ちになる時まで続いた。

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