第45話 2032年の決意
なんとかアバターの受け渡しを終えた後も、僕たちはくだらない話を延々と語り合っていた。
注文のアバターを渡したことで、この関係も終わりなのかと考えていたが、そんなことはなかった。
Vデビューへの準備や資材の相談など、アバター作りの時よりも連絡を取り合っていたかもしれない。
しかもライブ配信の練習と称して視聴者が僕だけで予行練習も行ったりするハメに……
僕が普段使いの『紅鮭』というHNでログインすると、
『こんにちわ~! 私は
カヨの元気な声と僕の渾身の作品であるアバターが迎えてくれた。
僕しかいないのだから、そうでない方、はいないんだけど。
『今日は~紅鮭さんとの特別配信です! 最後まで楽しんで行ってね~!』
聞いているだけで、カヨがどれだけ配信を楽しんでいるかが伝わってくるほど、抑揚のある声。
僕は頬杖をつきながらずっとニヤけてしまっていた。
最初は見てくれる人じたいがいない状態で、視聴者が僕だけなんていうことは当たり前だった。なかなか人が増えない状態だったが、カヨはそれでも腐ることなく地道に日々の更新を怠ることなく続けていった。
配信を始めて1年が過ぎた頃だ。
カヨは再生数など気にせず、視聴者を配慮した動画を上げていく中、Typeβも急激に成長していくこととなる。
花関連の動画で一度バズった後は登録者数がみるみるうちに伸びて行き、上位陣には届かずとも立派に中堅といえるほどのファンを獲得した。
カヨのトークに加えてアバターの出来も評価され、まるで実写ファンタジーの世界、とも言われるほど動画の中に独特で華やかな世界を広げることに成功していたんだ。
アバターの作者である僕は、このおかげで仕事にありつけたと言っていい。
魔女をモチーフにして怪しい雰囲気を醸し出してはいるものの、トークから滲み出るしっかり者のイメージがファンに浸透し、いつしか『ルネ姉』と呼ばれるようになっていった。
僕も気が付けばその呼び名ですっかり慣れてしまっていたんだ。
コラボ配信なども盛んに行い、その中でも特に
コラボしては「ルネ姉をVの一番にする……」なんて言っていたことがなつかしい。
ガチ恋勢と言えばいいのだろうか……Vの中身に惚れるという話は昔からよく聞くけど……このファンタジーという違和感に仕事をさせず、現実化するTypeβアバターは、ガワだけでも異常なほどに人々を魅了するファンタジー風に言えば魔力という物を備えてたんだと思う。
まぁだから規制されたわけだけれども……
規制された後、僕が一生お目にかかることはない金額で購入したいと打診されたこともあったが、Typeβは僕が個人的に関わった人の思いや願いを反映して作り上げたモデルだ。
他の人が手に入れても本当の価値は失われてしまうだけだ。
その人の魅力を一番引き出してくれるのが僕のTypeβなんだ。
そう自信を持てるようになったのはルネ姉……いや、カヨのおかげだ。
何もなかった僕に生きる意味をくれたのが彼女なんだ。
だから……
僕はルネ姉からVを辞める相談を受けた時、信じられなかった。
でも……
冗談でそういうことを言う子ではないことは僕は十分知っていた。
そして、彼女がとても花が好きだということもよく聞いていた。
Vの仕事を軽んじているわけではなくとも、二足の草鞋を履くなんて器用なことをできる子じゃない。
だからこその終わり。
彼女と会い好きな花の仕事に就く後押しの話をするために、あの日僕は彼女の家を訪ねたんだ。
そして……
そこで僕が見た物は……
いつも笑顔を浮かべていた顔を、思わず目を背けたくなるほど腫らし上げ、虚ろな瞳で天井を見上げる彼女の姿だった。
鼻に手をかざしても、息を吸うことも吐くこともなく。
朱色に塗り潰され、腫れあがった頬を両手で優しく包んでも瞬きさえしない。
彼女が息絶えたことを僕が認識した時。
僕は。
どうしてとか、なぜとか、取り乱すことがなかった。
ただ……彼女をこんな姿にした相手を殺したいと。
純粋にそれだけが僕の頭に浮かんでいたんだ。
僕は彼女の側に置いてあった
犯人に繋がる情報を手に入れるためだったが、あんなことをした後でも犯人は冷静なのか、犯人に繋がる情報の一切がなく、履歴が消去されたという予想は立てられてもそれ以上を探ることはできなかった。
さらにそれ以外にも消えていたものがある。
『
これが目的なのか、ついでだったのかは定かではない。
でも……このアバターが目的だったとしたら。
それは……僕の罪だ。
また、突発的なモノなのか、それともストーカー的な周到な準備のもと行われたのか、それすらも素人の僕では判別ができなかった。
だから……
僕は
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