第40話 17時11分 提案
終了まで残り1時間を切っている。
ロリパンダは逃げ切りを選び姿を消したのかどうかが重要になってくるが、
「狙撃銃に位置取りをされる前に……こっちも仕掛けたほうがいい……」
「僕もそう思う。視界が良い所で待機してれば狙撃されるし、隠れていても逆に近寄られて先手を取られる可能性もある」
ガレットも僕と同じ考えのようだ。
交戦の意志が分からない以上、相手に自由を与えてこちらが不利になる状況は避けたい。
それに僕はロリパンダが僕の求める人物なのか、確認をしなければいけないという事情もある。
「1階と2階を動かれると大変……私が2階に上がるから……ねずみさんは1階で両方の階段を警戒しててほしい……」
「それなら僕が2階に――」
「ううん……さっきの特殊部隊との戦闘で足怪我してるから……私のほうが動ける……それにチョッキもある……」
機動力という意味では怪我をしていようがしていまいが、僕よりガレットのほうが上なのは最初から分かっていた。
女の子に任せるなんて……
僕は苦い気持ちを幾度も咀嚼した後ようやく飲み込み、その提案に頷いた。
「あとそろそろ時間に気を付けて。それとそこの時計とロビーのニキシー管時計だけど……――」
「……――うん……わかった……」
ガレットが2階に上がるタイミングでニキシー管時計を破壊する旨を伝えると、ガレットは顎を引くと共に自前のハンドガン、そして特殊部隊のハンドガンを握った。
僕が中央階段側を警戒している間に、ガレットが非常階段へ向かう。
ガレットが非常口の中へ入っていくことを確認した僕はロビーのニキシー管時計を撃ち抜く。
僕の身の丈ほどもあるニキシー管は、甲高い音色をエントランスに響かせ崩れ落ちていった。
僕が居るフロントの受付カウンター内は吹き抜けからでは死角だ。
相手が降りてくるなら必ずどちらかを通らなければいけない。
『思い込みは危険』。
そんなこと言葉をよく目にもするし、人に言われたこともある。
視界を自ら狭くしたらそりゃ危険だろう。
なんて、分かった気になっていた。
どうやら僕は実体験を伴わないこの言葉を本当の意味で理解していなかったんだ。
2階から響く銃声。
この重い音は狙撃銃だ――
ガレットが先手を取れたのかどうか気掛かりではあるが、僕は受付カウンターから身を乗り出し、中央階段へ銃口を向けた。
もちろん非常階段側にも意識を割くことは忘れていない。
非常階段と中央階段へ視線を往復させていたちょうどその時だった。
僕がそのことに気が付いたのはまったくの偶然。
1階のレストランに繋がる通路から音を立てずにサブマシンガンを握った腕が伸びたことを目視した。
なんだよそれ――ッ!!
抉られた足の痛みも頭から追い出し、あらん限りの力で横へ跳ぶ。
その直後、受付カウンターへ向けられたサブマシンガンがけたたましい音と共に銃弾の雨を吐き出した。
カウンターで跳弾した銃弾は規則性など一切持たずあらゆる方向へ跳ね――
その間、僕は必死に瞼を下ろしながら、頭を抱え身を縮め耐え忍ぶ。
全弾撃ち尽くすつもりなのか!?
あまりに長い連射。
僕は這いずるように受付カウンター内へ逃げ込み、土砂降りの雨上がりを待つ。
1階に静寂が訪れた後、横から顔を覗かせると、通路から同じく半身を出したサキュバスと視線が交差した。
「うっそ~~~……当たってないじゃ~~ん……」
右手に握っていたサブマシンガンを背後へ放り投げながら、中央階段の影にその姿を隠した。
左手に持つもう一つのサブマシンガンが見えなければ、飛び出していただろう。
「ちょっと~もう時間ないから空気読んで欲しいんだけど~……ね? どうせあなたの人生なんて大したもんじゃないでしょ? 私の未来のために死のう?」
どいつもこいつも自分本位なやつばかりだ……
でも……それは僕も変わらない……か。
僕はハンドガンを握る手へ無意識に力を込めていた。
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