第35話 14時53分 引き金
狼が入口から通路へサブマシンガンを突き出してくる。
僕も待つばかりでは生き残れないことを自覚した。
僕が今握りしめていたのはサブマシンガンではない。
フライパンだ。
「このォォォッ!!!!」
僕は掛け声と共にサブマシンガンにフライパンを叩きつけた。
片手で不安定な持ち方をしていたのが決め手となり、サブマシンガンを床に叩きつけることに成功する。
すぐさま僕は落ちたサブマシンガンを足で蹴りジム側の通路へと滑らせた。
狼は片手を叩かれた衝撃で姿勢を崩し、入口で膝をつく形になっている。
僕は一歩下がり、サブマシンガンを向けた。
「いや……待てって……」
先ほどと立場が180度入れ替わると、僕が言葉を発する前に両手をあげた。
「そういうゲームだから……でもあなたには感謝してる」
狼は僕の言葉に希望を見出したのか、口を開けながら僕を見上げた。
「やっぱり人殺しは辛い……けど、あなたのような人なら僕は罪悪感がとても軽く感じられるから。この考えじたいが卑怯だけどね……」
「――ふ……ふざけんなっ!! 人の命は平等だろうが!!」
「生まれた時はそうなのかも。でも人は生き方で命の重さを変える生き物でしょ? 自分の命を軽くする人もいるし、人の命を軽くする人もいる」
そして冷静を装っていても体は正直だ。
僕はサブマシンガンを構える腕が震えていることを、悟られないようにすることで精一杯だ。
それはガレットが近づいてきていたことに、今気が付くほど興奮していた事実も伴い、より明白なものとなった。
「こっちも終わり……」
ガレットに目を向けるとその後ろに獣耳少女がいる。
「――え? それって……」
「ケモ耳さんは降参した。武器ももらったから丸腰」
ガレットの呟くような言葉を聞いた狼の目が見開いた。
「な、なら俺も降参だ!! いいだろ? 協力すりゃこんなゲーム簡単にクリアできるっつの!! なっ!」
狼が体を捻りながら背後のガレットたちに許しを求め始める。
だが、その言葉を聞いた獣耳少女が駆け出し、僕が蹴ったサブマシンガンを拾うと狼に向けて構えた。
「おっ!! おい!!! ふざ――」
狼の叫びなど端から聞く耳を持つ気がない獣耳少女は、迷うことなくトリガーを引いた。
「ふざけんなよ!! てめえが生きてたら元の生活にもどれねーだろうがッ!!」
「いぎゃっ!! やめッ!!! ふざ――……」
顔から胸元までいくつもの穴をあけられた末、狼が倒れる。
だが。
「てめえみたいなカスが私を脅迫なんて調子ノってんじゃねーよ!! ボケが!!」
さらに体の横に立ち、銃口を顔に向けて弾が切れるまでトリガーを離すことはなかった。
「うふっ……うふふふふふ!! ざまあみろ!! このカスのことだから懲役めっちゃ持ってるよね!? これで私も生き残ればクリアじゃん!! うふふふふっ……」
『梨藤フラン』。
名前通り外国人とのハーフだ。アバター自体も美少女だが、それすらも霞むほどに。
だからこそ絶大な人気を誇っていたのだが……
少なくとも今の僕は、この狂気にも似た笑みを浮かべる彼女が美しいとは到底思えなかった。
「勝手なことしないで……」
その行動にガレットが静かながらも怒りが染み出た言葉を投げる。
「はっ!? こいつはどっちにしろ殺すんだからいいっしょ? 生き残られても困んだし! ってか、私あと隠れてりゃいいんだよね? 約束はあんたたちを攻撃しないってだけっしょ?」
「と……とりあえずこの通路にいるままだとまずい。奇襲されても逃げやすい場所へ移動しよう」
睨み合う2人の間に割って入る。
制止するよう手の平を向けながら僕が提案すると、納得いかないように視線を逸らすも軽く頷いた。
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