第34話 14時35分 情報

「ガレット! 怪我は?」


 狼たちが走り去った後、駆け寄るとガレットは左腕を抑えていた。


「大丈夫……サブマシンガンが少しかすっちゃったけど……また姿を消される前に追いつこう……」


 出血加減をみただけでは判断ができない。

 アバター表現でデフォルメされている弊害だ。

 僕の頬も実際に見たら、酷い抉れかただろうとは思っている。


 僕が先頭を走りジムにたどり着くと、マッサージルームへ通じる通路へ向かう狼の姿を目視する。


「いたっ! 奥に逃げ込む気だ……! あいつのサブマシンガンは僕を撃つことはできない。ガレットはここにいて!」


「ねずみさん……!」


 僕が振り返ると、ガレットが自分のサブマシンガンを僕に放り投げた瞬間だった。

 慌てて受け取る。

 トレーニング器具の置かれたジムを通り過ぎ、通路に差し掛かるとちょうど狼がマッサージルームに入る瞬間を目撃する。


 僕はさらに足へ力を込めて床を蹴り速度を上げた。


 その時ジム側のガラスが一斉に割れる。

 ジム内からサブマシンガンの乱れ撃ちが始まったのだ。


 あいつは奥じゃ!? 違う……サブマシンガンを撃ったのは獣耳少女のほうか!


 僕が振り返ると、ガレットは手の平を向けて僕を制止した。


「狼さんをお願い……私はこっちのケモ耳さんを……」


「ぐっ……分かった――それならこれを!」


 サブマシンガンの代わりに僕のハンドガンを思いっきり滑らせてガレットに届ける。

 ガレットもハンドガンを持っているとは言ったが、弾数に余裕があるに越したことはない。

 相手も巧に武器を入れ替えてミスマッチを防いでいる。

 正直な話、僕があちらに残ってればもっと簡単に……

 いや……あのサブマシンガンが狼のものかどうかは分からない。それすらも織り込み済なら、ここでもたついている意味はない……!


 後ろ髪を引かれる思いでマッサージルームへ走る。


 早めに近づいて……今なら火力も負けていないはず……!


 全力で床を蹴り遮蔽物のない通路を駆け抜ける。

 もう少しでマッサージルームという時。

 中から手榴弾が飛び出てくる。


 やばい――ッ!!


 狙ったわけではなくたまたま、つま先で蹴る形になり、背筋に冷たいものが走ると同時に伏せる。

 爆風と破片によって腿に痛みが走るも、動けない痛みではない。


 壁に背中を預けマッサージルームの中を覗こうとした時、扉を穿つ銃の乱射によって僕は伏せることを余儀なくされた。


「ひひひ!! いーもん見っけー!!」


 狼の声だ。

 今のサブマシンガンは……もしかしてガレットが隠していたもの?

 あっという間に僕の優位性アドバンテージが消失する。

 むしろガレットがサブマシンガンを僕に渡してくれてなかったら……そう考えるだけであぶら汗が滲み出る。


「っつかお前らもしつけーなぁ……手の穴の一つや二つ忘れろや」


 目まぐるしい展開で忘れてたのに思い出させてくれるなよ……

 でも、そのおかげで一つ大事なことも思い出せたけど……


「興奮しててすっかり忘れてたよ。それに僕は目的のために障害を排除したいだけだ。聞こえてるよね? 『柿沼かきぬま 結雅ゆうが』」


「なッ!? てめえなんで!!」


 当たりだ。

 僕の拾った薄型情報端末カードは、やっぱりこいつのものだったんだ。


「さっき言ったじゃないか……薄型情報端末カードを持ってるって……」


「ちょ……ちょっと待て。落ち着こうや……」


 落ち着いたから思い出せたんだ。

 あんな胸糞悪いモノばかり残して……


「それは自分に言ったほうがいい。さっきまでの余裕がすっかりなくなってるしね」


 白スーツの気持ちが少しだけ分かった気がする。

 問いかけるほうからすればここまで動揺していることが分かるなんて……

 告発される、という心理は味わったから分かるけど気が気ではなくなる。

 相手に命を握られている感覚だ。

 あくまでも僕個人の意見だけどね。


「待て待て待て。そうだ! どうだ? 手を組もうぜ。あのケモ耳女の中身はお前だって名前聞いてピンと来たんだろ? しっかり使わしてやっからよ……なんならクリア後に他の女をお前に見繕ってもいい。知ってっか? 最近出回ってる薬だよ『パラリス』ってのを飲ませりゃ意識ははっきりしてても、体は麻痺って――」


「いや、興味ないからいい……話を聞いてるだけで気分が悪くなる」


「あ~そうかよ……」


 僕は告発はできない。

 でも相手はそれを知らない。

 だから相手は動かざるを得ない――ッ!


「なら、死ねやァァァァ――ッ!!」

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