戦蘭の花師

のつなよ.exe

第1話、『主材その1]]

 ひよひよひよ...ちちちち......

小鳥の囀りが響く朝

ゴワついたミリタリージャケットを着た1人の男が、雲五分の空のもとを歩いていた。この男が後に辿る道筋は...今の彼の知る由もない事である。


 とても小さいことは無く、特別巨大な訳でもない、4つの国が組んで産まれた...[ガベル連合国]。均衡している戦時下で、人々はおのが為に日々を過ごしていた。ガベルは、他国との泥沼化した戦争を動かす為の打開策を求めていた...。


『この戦争を動かす為に...何かいい考えは無いか?』

『閣下!自分に考えが一つ』

『言ってみろ』

『ハッ!新兵器...それも革新的なものを開発して実践投入をするので御座います』

『なに!?莫大な予算が必要なのではないのかね。』

『もちろんの事に御座います、しかし!結局何をしようにも金はかかる!よって、動ける事から片付けるのが最高ベストであると確信しているので御座います!』

『しかしだね...。』

『気にするな参謀よ、偶には若い脳も使う方がいいだろう...開発部、長官として任命する』

『閣下!?むぅそう言われれば引き下がるしかないようだ。』

『では...!』

『その前に条件を一つだ...』

『なんでしょう?』

『極めて普通で、それでいて重要な事を話す。"必ず戦果を上げよ"...以上だ』

『ハッ!』

 若い将はその開発部長官とやらに任命され、こころざし胸に立ち去った。


 少しの月日が経った。

 戦争はいまだ拮抗状態を維持しており、同じ戦場で何も変わらないまま...。

「メカニカルコンテスト優勝、この若さでか...ふむ」

一つの部屋にどっしりと構えられた一組の机と椅子に座り、開発部長官の”ディレオン・ダン”は小さく口にする。

「よし!」

ディレオンは俄かに部下へと一本の電話をかけた。


 翌日、一人の男が長官室に連れ込まれた。

「ローザス・イラ...君でいいね」

「...そうですけど、」

その男、ローザスは一般人なのだが、きっちりとしない雰囲気のミリタリージャケットを何故か着こんだパッとしない青年だった...。

「どうして...ここに、」

『きさまっ!発言は許されていない!』

「よせ....呼んだのは何を隠そう私だ....少し君にやって欲しい事がある」

「.........、」

戸惑っているローザスを前に話を続ける。こういう時は押したもの勝ちだ。

「新兵器の整備管理の仕事...所謂メカニックをしてもらいたいのだ」

「メカニック...?僕が?新兵器の?」

「そうだ」

「無理ですよそんな!絶対失敗しますよ......、」

「何故だい?」

「僕は...一つの事に没頭しちゃうと他の人の声なんて聞こえなくなっちゃいますし...いらない事して怒られるのはしょっちゅうですし...、」

「だからこそさ」

「え?」

「だからこそ...この新兵器というものは一人でできる」

「じゃあ僕なんて...、」

「いや、一人じゃないと出来ないんだ....。複数でたかると、どうも手に負えないんだ、それは......だから”一人”尚且つ”最高の実力”で手入れをせねばならん。丁度、一輪の花を極限まで引き立てる”花師”のようにね......」

「.........、」

「こう言うのもあれだが、この計画自体いらん事みたいな雰囲気ムードであるから、君のいらんことしてしまう...というのも目立たないのでな。君にしか出来ない...どうか頼む!」

ディレオンは頭を深く下げる...。

ローザスはこの長官が自分がYESというまで頭を上げないつもりでいるのが、何かちょっとしたオーラのように伝わった....。ぐるっ...と唾を飲み込むと

「......やってみます、なにか......アイデンティティが見つかるかもしれません、」

 ...と、ちょっとした食い下がった感を薄める為に理由を付けてそう返したのだった。


 では、とその日の内に宿舎となる場所に連れていかれたのだが...

「たぶん...ハマってしまったらずっとその兵器、いじってるかもしれませんし...部屋いらないかもしれませんね、」

ちょっと和まそうと七割本当の冗談を言ったが、

『はっ!! しかし、宿舎の空きはこの為に取っていたであります!!』

「あ...なんかすみません、」


 長官室に残ったディレオンは部下に言った...

「この為に軍主導で、中止していたコンテストを開いたが...毎度ながら経費の一部の申請は別の部署当てしといてくれ、そろそろ限界かもしれんが...」

『了解で有ります』


 再び、ローザス。

次に施設見学に回る。

「兵器の資料とか無いのです?」

『本来であれば関係者のみの軍事機密ゆえ、新兵器の細かい情報は余り言えないのであります』

「あ、すみません...。もうちょい早く言って欲しかったナ......、」

『尚、資料に関しては、ガレージの本棚にて纏められているであります』

「りょ...了解です、」

『そういえば、この計画中は許可を得ねば本部から出れないことは...承知しておりますか?』

「あ、はい...それには、良いですよって答えました、」

『了解であります、私からも言いますが...以前丁度1週間前に、兵器が完成した直後に担当した研究員2名が重度の鬱症状になってしまい、軍職にも復帰できない状態であります...心して』

「え、いまなんて......、」

『ではこちらで有ります、貴公の健闘を祈るであります』

「ちょ...、」

半ば押される様に入れられる。

バタン......。


 この軍人は先程の2名の研究員が鬱病になった事を伝えたが...これで引き返されてはと考えてしまい、少々強引に押し入れたのである。心の中ではちょっと逆効果だったかな...と反省していた。

『気持ち強く持って......』


 薄暗いガレージ...小さい電球に照らされるコンクリの壁に剥き出しな鉄骨のはり...。

「お邪魔します...、」

零れる反射的な挨拶。だが、ここにあるのはただの兵器なのだ、何も変えって来ない......


......と思っていた。


『なによ...またなんか来たの? はァ~バカみたい...ま、挨拶ぐらいは返してやってもいいわよ? こんにちは、どうぞオカエリくださいませ..."ご主人様"]]

透った声が生意気に無機質な空間に響く...

その声の持ち主は、診察台のような固いベッドの上で仰向けに天井眺めていた......。


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