自動販売機

キザなRye

第1話

 ある田舎の町では都会では聞いたことがない不思議な都市伝説が信じられていた。自動販売機に表示される4桁の数字に関するものである。世間的には4桁の数字が揃えばもう一本もらえるという仕組みになっている。ただある田舎の町では4桁の数字のうち最初から数えて3桁目の数字だけが7になると呪われるという都市伝説があった。人呼んで“アンラッキー7”である。

 ある日、アンラッキー7を知らない都会の男がある田舎の町に来た。おいしい空気を吸いたいとかそれくらいの軽い思いで来ていた。この町自体が山奥にあるというのもあって自然のために訪れる人も少なくなかった。よその場所から人が訪れることはよくあることなのだが、この男の他の人との大きな違いは自動販売機で出してしまった数字だった。

 男は自分の町でもやっていたように自動販売機で飲み物を買った。いつも4桁の数字でその日1日の運勢試しをしていた。今日はどんな数字が出るかなと少し楽しみにしながらコロコロと変わる数字を眺めていた。コロコロ変わって1桁目が4、2桁目が4になった。この段階で男は今日は意外と上手く行くかもしれないなと思っていた。そしてその後の数字は3桁目が7、4桁目が4に変わった。その男の感想は惜しかったなとただその一言で済む話だが、この町の人からすると一大事だった。もちろん男はこの事実に気付いていない。

 何も知らないままで男は丸一日を過ごした。都会では味わえないような自然と触れ合うような施設に行ったり、市場で新鮮な食べ物を買ったり町を満喫していた。夜、宿に帰った後で女将さんに今日一日をどう過ごしたのかと男は聞かれたので朝の自動販売機の話から始めた。

 自動販売機の数字を聞いた段階で女将さんの顔は青ざめていった。言葉が何も出なくなっていた。男は女将さんの顔色が違うことを理解して心配して

「顔色が悪いように見えるんですが、大丈夫ですか」

と尋ねた。女将さんは心配されて少しだけ顔色を元に戻すことが出来たが、万全な状態に戻すことは出来ていなかった。出せる力を精一杯出したような声で

「私たちの町に伝わる都市伝説をご存じないですか」

と言った。男は本当に何も知らなかったので頭の上にはてなマークが浮かんでいた。その様子を見て女将さんはこの人は何も知らないんだなと理解したようでゆっくりと言葉を紡いで都市伝説を説明し始めた。そこで初めて男は朝自分が引いた悪運のくじを理解した。

「アンラッキー7は自分ではなくてその日訪れた場所にいた人たちを不幸に陥れるものなのです。そして引いてしまった人はすぐにこの町から出て行くことが暗黙の了解になっているのです」

 もう一日を色々なところで過ごしてしまった男にとって女将さんから聞く話は恐怖でしかなかった。自分の行動が周りに不幸を振りまいたと思うと男は居ても立ってもいられなかった。

「私はどうすれば良いんでしょう」

自分に今できることをとにかく精一杯やろうと男は必死になって女将さんに聞いた。自分には何が出来るのかと自問自答することくらいしか男が今できることは思い当たらなかった。

「今すぐ町を出て行くこと、ただそれだけです。お代は結構です」

女将さんの言葉はそれだけだった。今自分が要求されていることは町から速攻撤退することだけだと男は理解して一目散に逃げるように町を出て行った。

 男が出て行った後の町の様子は誰も知らない。その町が現存しているのかすら知らない。もしかしたら男のせいで町全体を潰したのかもしれないしそうではないのかもしれない。

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