第4話 毒舌配信を始めてみた
ダンジョンライブ配信を終えたところで、カメラの電源をオフする。
「ふぅ〜、やっぱ緊張すんね」
森のダンジョンは静かだから結構好きだけど、一般人を連れてくると緊張する。
「アクッチ。お疲れ」
「ユメもあんがとね。配信のカメラマンをやってもらって」
外で配信するために、幼馴染のユメにカメラマンをお願いした。
普段は、投稿者された内容に答えたり、コメントに答えている。
だけど、今回はたまにはアンチどもを黙らせるために、ダンジョンへやってきた。一人じゃ配信ができないから、色々と考えたけど外での配信も悪くない。
「いや、マジでグロかったわ。キモすぎでヤバいよ。今の映像もしかしたら運営からバンされるかも?」
「それは大丈夫でしょ。冒険者のダンジョン攻略は運営側も寛容なんだよ。テロップにグロいシーンが入ることとか入れてくれるし。自動でモザイクかかるようになってるみたい」
「へぇー、今時の動画配信って凄いんだね」
「先にダンジョン攻略配信って言っとけばね」
一息ついて、オークの肉をラッピングしてカバンに入れていく。
普通に入れると血抜きをしてても、中から滴ることがあるので、もう一手間必要になる。
「丁寧だね」
「まぁ一手間かければ、納品の料金も上がるからね」
「うわ〜現実的」
「生きる知恵と言いなさい」
軽口が叩けるユメは私にとって唯一の友達。
私の両親が死んだ後、ユメのお母さんは私を救ってくれて、ユメはずっと私と友達でいてくれた。だから私にとって二人は唯一の味方。
高校は私にとっていいところじゃなかった。前に、学校の話を投稿者にしたけど、学校で上手くできなかったのは私自身。
今でも、集団で行動するのは苦手で、ユメとユメのお母さんとしか、私は一緒にいたくない。
冒険者になって自分の居場所を見つけた。
そして、動画配信を始めてからは自分はやっと居場所を見つめけたと思えた。
だから、ダンジョンライブ動画配信を撮影するって決めた時、ユメに同行してもらうことを決めた。
絶対にユメを危険な目に合わせない。自分が余裕だと思えるダンジョンで撮影することも選んだ。
「でも、どうして動画配信を始めたの? 前までは冒険者だけだったじゃん」
冒険者の仕事で行き詰まった時、動画配信で攻略動画を見た。
私にとってすごい衝撃的な映像だった。
誰かの役に立つ。こんな私でも役に立てる?
最初は、承認欲求とストレス発散が目的だった。冒険者になって生きていくことができるようになった。だけど、人とはやっぱり上手く接することはできない。
どこかで知らない人と話して、認められたいと思った。
「それにしてもアクッチは、いつもこんな大変なことをしてたんだね」
ユメが深刻そうに、先ほど解体したオークを見つめる。
「仕事はどれも大変だよ」
「そうだね。うちのママも介護の仕事してるけど。大変でいつも疲れてるもんね。人のお世話をするのは好きって言ってたけど。好きだけど、大変なのはどうしようもないんだろうね。あ〜 仕事したくないなって思っちゃうよ」
「どんな仕事をするのかわからないけどさ。ユメは頭がいいんだから、まずは大学に言って勉強だよ」
「うん。ありがとう」
動画配信を始めた当初は、見た目が可愛いとか、出会い目的の男ばかりで、うんざりした。きっとモデルさんとかグラビアアイドルさんがやっている動画配信みたいに、可愛くて、スタイルがいい人のやらしい動画が求められているって気づいた。
だから私はあえて、肌の露出が少ない服を選んで、コメント欄に書いてくる男どもを罵った。最初は潮が引くように男性がいなくなって、見る人がいない日もあった。
だけど、少しだけ残った視聴者さんから受ける質問に答えているうちに、視聴者が多くなってきて、批判じゃなくて、毒舌を吐くのも面白いなって続けるようになった。それが私のスタイルなんだって思えた。
両親がいない私にとって冒険者は高校の時から稼がせてもらえるありがたい職業だ。だけど、まともに学校に行けなくなった私からすれば、真面目に学校に言って普通の生活ができるユメの方が羨ましいと思ってしまう。
私は両親がいなくなった時点で、クラスから除け者のように扱われるようになった。イジメをしようとするバカや、この機会に私を自分の女にしようとするバカもいた。
そんな時に助けてくれたのがユメだ。昔馴染みで、違う学校にいたユメがたくさん話をしてくれて、私を元気付けてくれた。
「ユメの学費はもう払い終えたんだから頑張って」
「うん。アクッチの恩に報いてみせるよ」
ユメの家は、お母さんと二人暮らしだから、大学にいく費用がなかった。それでもお母さんは奨学金を借りてユメを大学に入れようとしてた。
凄い人だと思う。だから、冒険者として稼げるようになった私が建て替えて、ユメに少しずつ返してもらう約束をした。本当は返してもらわなくてもいい。
私が辛い時、二人は私を守って一緒に暮らしてくれたこともあった。
自立して、二人に頼ってはダメだと思うようになってからは二人の助けをしたいと思ってきた。
「でも、アクッチは動画をとっている時の顔、生き生きしてるね。私は嬉しいよ」
「そう? 自分じゃわかんないけど」
「うんうん。なんだろう。私はさ、アクッチのご両親が亡くなって苦労しているのも見てきたから思うのかもだけど。アクッチはずっと切羽詰まっててm張り詰めていたような気がするよ。だけど、毒舌を吐いて、自分ができなかったことを他の人に伝えて、凄いなって思う」
私はユメを抱きしめる。
「わっ!何っ、何するの?」
「ありがとう。ユメは最高の友達だよ。ユメが思うならそれは合ってるんだよ。私も好き勝手に言いたい放題しているだけなのに、視聴者が増えるから面白いって思う反面。怖いなって思ってた」
「怖い?」
「毒を吐くってことはさ、相手の意見を否定することだよね」
「うん」
「SNSとか、動画配信のコメントをしてくる人たちって、自分の姿は見せないで人の批判はするだよ。誰かをコケ落としたり、馬鹿にしたり、それってさ。それぞれに役割があって頑張って生きている人の邪魔しているように感じるじゃん。そんな奴らには馬鹿にすんなよって言いたくなるわけ」
もうすぐユメは大学生になって、こうやってダンジョンに一緒にいけなくなる。そう思うからついついいつもよりも自分の気持ちをユメに言いたくなってしまう。
「アクッチは人の弱さを。人生の厳しさをたくさん見てきたからね。偉いよ」
そう言って私を抱きしめて頭を撫でてくれるユメはやっぱ私の神。
「まっ、全員に届けなんて思ってないし、視聴してくれる人だけでも、わかってくれたら嬉しいかな」
「難しいだろうけど。頑張ってね」
「任せて、変なやつ来てもAランク冒険者の私は強いんだから」
「うん。それは間違いないと思う。さっきのブタちゃんもありえない倒し方してたから。一撃とか絶対無理だからね」
「え〜、強くなればできるって、多分」
「多分かよ!」
私たちは一通り笑い合って帰宅した。
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