第6話 聖女誕生したって

 ニュース速報で、流れる聖女誕生に私は神が我々を見捨てていなかったと涙を流しました。いつか、神の子たる私たち人類を導く者が舞い降りると思っておりました。


 そんな感動を覚えた私は、最近気になっている配信者に、この話を伝えて改心を促してみることにしました。

 毒舌のように口は悪いのですが、どこか正しいことを言っているように感じる動画配信者にです。


「まず、始めにいっておくけど。私は遠慮とかしないから、聞きたくないならどっか言ってね。それでもいいなら残って聞けば。あっ、あとキモい奴は即ブロックするから、ここでは私が神。わかった?」


 神を語るなどなんと畏れ多いことか、しかし、動画配信のいつもの枕言葉ならば許せる範囲ではあります。

 

「なになに、聖女誕生についてどう思いますか? う〜ん、聖女ねぇ。あれってさ職業なの? 一応ジョブって扱いなんだよね? 聖魔法が得意な魔法使いってことだよね? 聖魔法って正直何って思うけどね。他にも光魔法とか、回復魔法とかあるじゃん。聖魔法って別個にする意味がマジでわからないんだけど」


 なっ!何を言っているのですか? 聖女とはまさしく神の使いです。いわゆる使徒ですよ。それを聖魔法が得意なだけの魔法使いって! 失礼にも程があります。

 美しい少女で、聖なる力は人々を癒して、魔物を浄化するのです。そんなことも知らないとは本当に冒険者をされているのでしょうか? 私も聖職者として冒険者のお手伝いをすることがありますが、我々の力があるからこそ。ゾンビやスケルトンなどの魔物を倒すことができると言うのに。


「他の冒険者との違いがわからないわぁ〜特別感出す意味があるの? でもこういうのってさ。大衆心理って言うんでしょ? 全員がすごい人って認識したら、ヒーローを祭り上げる的な? 聖女って言われたこの子も、その気になって一緒に盛り上がるわけ。そうなると有名な著名人として誰も手がつけられなくて、結局裸の王様にならないといいけどね」


 たっ、大衆心理などと一緒にされては困りますね。

 何せ、神が選んだのです。

 我々、人間が聖女を選定したわけではありません。

 これは正当な神の神託なのです。


「まぁ人ってさ、何かに縋りつきたくなる気持ちってあるよね。それは分かるよ。でも、自分の耳聞こえの良いことしか聞かないわけよ。お医者さんがあなたは糖尿病ですって言っても、甘い物も、お酒も、米も、パンも、やめないの。うちのお婆ちゃん。糖尿病で死んだんだけど。本望なんだろうね」


 なっ、何の話をしているのですか?


「お婆ちゃんの言い訳でさ。病院の先生に糖質制限されて、パンとか米を食べたらダメって言われるとさ、米を食わなかったら力が出ないとか言い訳はするじゃん。病院の先生の言うことが聞けないなら勝手にしろって感じだよね。でもさ、私はお婆ちゃんにもう少し長く生きていて欲しかったって思うの。お医者さんの言うこと聞いて、我慢してでも長く生きて欲しかったわけ」


 そっ、それはお婆さんが言うことを聞かないのが悪いのでは?


「お医者さんはさ、何年もかけて勉強して、何人も数えきれない数の人を診て、それでもあなた一人のためを思って診断を下すの。それなのに、どうせ大勢を見て適当に診断してるとか文句を言う人がいるわけ。お医者さん達もこいつらに言っても意味ないなって思うよ、そりゃ」


 そうですね。素直に聞いていればもう少し長生きできたかもしれませんね。


「でもさ、この聖女も、聖女って言葉が耳聞こえが良いだけじゃない? 確かに凄い力を持っているかも知れないけど。所詮は一人の人間だよね? そんなか弱い一人の少女に責任を負わせてさ。聖女だからお前が全てやれとか言う大人が出てきた時に、他の大人は守れるのかな? 強い力を持った子を制御できないと判断して言うことを聞かなくなっても、責任を持てるのかな? 過度な期待して、期待に応えなくても崇め続けられるの? 聖女が誕生したって、それが何?」


 コメント欄の更新が止まっております。

 なにか反論をしなくては、誰か反論してください。

 そうしなければ私は……


 私は、一人の少女に責任を押し付けようとしていたのでしょうか?


「まっ、今回は聖女の子もノリノリだからいいんじゃない。だけど、期待に応えられなかった時どうするの? 実際にそうなったら楽しみだね。まっ私には関係ないけど。 最近、やたら閲覧者多くない? そんなに私の配信見たいの? めっちゃ文句言うだけだよ? あれだね。 アク見たちってマジで、ドMじゃね? あはははは」


 美しい顔、美しい声、だけど吐かれる言葉には毒があり、私の心は怒りと同時に自分の心に問いかける疑問が浮かびました。

 いいね。ボタンを押すことは、彼女の言うことを認めた見たいで押すことができません。


「そろそろ疲れたから終わろっかな。 そんじゃまた明日。あっ最後に一言釘刺しとくね。盛り上げて神輿を担ぐのなら。最後まで責任持てよ。そんじゃアクゼでした」


 配信が切れた後も、私はしばらくの間、呆然として動くことが出来せんでした。今の配信を見て、怒りを覚える人もいるでしょう。

 ですが、私はどこか自分は聖女は神の使徒だと崇めながら、彼女はなんでもできるのだから崇め奉るだけでいいのだと決めつけていました。

 勝手に聖女様が導いてくれると、そうすれば、私は幸せになれると思っていました。


 本当にそうなのでしょうか? 私の半分も生きていない少女に全てを委ねて、崇拝して、責任を押し付けて、私は恥ずかしくないですか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る