ラッキー7の呪い [KAC20236]

イノナかノかワズ

ラッキー7の呪い

「師匠、今日は授業はなんですか?」


 俺は現代の魔法使い見習い。


 高校からアパートに帰ってきた俺はいつものように師匠から魔法の授業を受けていた。


「今日か……そういえば、今日は七夕だったな」


 師匠が窓からアパートの入り口に掛けられた七夕笹を見やりながら、つぶやいた。


 俺は少しだけぼやく。


「はい。中学校の時もそうでしたけど、毎年七夕になるとテストが近いって自覚させられるから、好きじゃないんですよね。七って縁起のいい数字がついていて、七夕も縁起のいいものなのに」

「……そうだ! 今日の授業はそれにしよう!」

「え、どういうことですか?」


 首をかしげるをよそに、師匠はふんふんっと鼻を鳴らし、フィンガースナップをした。


 すると、空中に文字が浮かび上がる。師匠が魔法の授業でよく使う〝空記し〟という魔法だ。


「七という数字。それは確かに縁起のいい数字とされてきた。魔法においてもかなり重要な数字であり、魔法陣でも七角形などという形でそれなりに使われている」

「そういえばそうですね。日本は八が縁起のいい数字ですが」


 師匠が首を横に振る。


「いや、日本でも七は縁起がいい……いや、日本の神道や仏教を鑑みると、一言に縁起がいいで決めつけられるものではないんだが……」

「どういうことですか?」

「そうだな。『初七日』や『三十五日』や『四十九日』などといった死者に関連することで、七という数字は大きい。だが、よく死者に関連するからといって縁起が悪いと勘違いされるが、実際は違う」

「というと?」


 師匠が〝空記し〟で空中に絵を描いた。それは、多くの人が松明を囲み、崇める姿だった。


「日本は精霊信仰と同じように祖霊信仰が深く根付いている。日本の神道や仏教はそれに深く影響されているんだ」

「祖霊……つまり、死者ですか?」

「そうだ。つまるところ、七という数字は死者に関わるが、それは悪い意味での死者ではなく、先祖をしのび、いたみ、感謝する。そういう意味で、七という数字が使われているんだ」

「……死者に関連するから縁起がいいとは言いづらいけど、七という数字はいい意味なんですね」

「ああ。七福神なんかも、対応する神は室町中期までかなり変わるが、それでも七柱で固定されているし、七夕や七草など、あとは俳句や和歌なんかでも七という数字はよく取り入れられている。重要な数字なんだよ。七は」


 師匠は、そしてと続ける。


「西洋のラッキーセブンという文化はお前も知っての通りだが、世界各地で七という数字は強い。そもそも西洋は聖書の影響もあるがな。だからこそ、魔法はその影響をかなり受けている」

「さっきの話に戻りましたね」

「ああ」


 師匠は〝空記し〟で数字の7を三つ空中に書いた。


「ところで、お前。パチンコに行ったことはあるか?」

「はぁ? 師匠、大丈夫ですか? 俺、未成年ですよ?」

「分かっている。なら、そうだな。ゲームセンターは?」

「ああ、それなら、小さい頃に親と。映画の帰りによく行っていました」


 師匠がなるほどとうなずき、それから他にもいくつかの数字を書き、三つの7をくるくると回した。まるでスロットのようなだった。


「そう、スロット」

「え、ナチュラルに心を読まないでくださいよ」

「読んでいない。私がそう考えるように仕向けただけだ」

「なおさら怖い」


 俺は肩をすくめた。


「それでスロットがどうかしたんですか?」

「ゲームセンターでスロットゲームをしたことはあるだろう? その時、大抵は7という数字が、当たりだっただろう? 7がそろったときなんかはラッキーと思っただろう」

「ああ、はい。メダルゲームとかだと、いっぱいメダルが落ちてきました。すごくうれしかったですし、7ってラッキーなんだなとは思いましたよ」

「そうだな。そうだな」


 師匠は満足そうにうなずく。自分の思い通りに授業が進行できてうれしい表情だった。


「それが二千年以上積み重なったとしよう」

「魔法の世界でですか?」

「魔法だけでなく、人の世界。地球全体としてだ」


 師匠は言った。


「積み重なれば、多くの者は無意識的に思うのだ。7という数字が信用できる。縁起がよくて、ラッキーだと」

「まぁ、確かに自然にそう思いますよね」

「だからこそ、7は不幸アンラッキーな数字となる」

「うん?」


 俺は首を傾げた。


 師匠は空中に描いたスロットを消し、次に〝空記し〟で天秤の絵を空中に描いた。


「例えば、お前は運は平等だと思うか?」

「平等だと思いたいですけどね」

「そう。思いたいだけで、実際は平等ではない。ラッキー不幸アンラっキーも偏りがあって、訪れる。が、7は違う」

「7はラッキーだからですか? けど、今、師匠が言ったように平等じゃないし、何しろたかが数字に――」


 運が左右されるわけない。


 そう思って、


「あ」

「気が付いたようだな」


 俺は思った。


「二千年以上積み重なったラッキー7は、あらゆる文化や物事に根付いた。7という数字がラッキーになるように仕組まれた」

「みんな、運は平等だと思いたい。だから、誰かが7を手にして、ラッキーになったら、そいつにラッキーが奪われたと思ってしまう」

「そうだ。そして、これを魔法に応用した者がいる」


 師匠空中に描いた天秤を消し、〝空記し〟で逆さまの7を書く。


「反転文字は古来より、意味を真逆にするという性質がある。そして魔法の中には、ラッキー7にあやかった、運をよくする魔法というのがあるのだ」

「つまり、その魔法を真逆、つまり誰かの運を悪くする魔法にしたと?」

「厳密にいうと違う。先ほどの7によってラッキーを奪われるという発想に着目し、自分のラッキーのために、誰かのラッキーを奪う。自分はラッキー7の恩恵を預かれるが、逆にそうでないものは――」

ラッキーに奪われ、不幸アンラッキーになると。……恐ろしい魔法ですね」

「そうだ。恐ろしいため、それは禁術に指定されている」


 師匠が言った。


「魔法は、人の概念や発想に強く作用される部分がある。だから、魔法はそういった縁起がよかったり、重要だったりする数字や文字を取り入れて魔法が開発されてきた。が、これがよくなかった」

「つまり、7以外でも反転的な魔法が出てきたってことですか?」

「それもあるし、魔法の根幹をそれらが成してしまったため、魔法発動が阻害されるような事例も発生してしまったんだ。そしてそれが妖精や精霊たちにまで影響を与え、大きな事件に発展したんだ」

「事件?」

「大戦だ」

「え」

「あれが起きた要因の一つは、凶悪な魔物や悪魔を封じ込めていた妖精や精霊が反転による影響を受けて暴走し、封印を解除してしまったのだ。そして魔物や悪魔が放たれ、世界が混乱に陥り、大戦に発展した。特に封印術は7の影響を多く受けていたからな」


 師匠は言った。


「だから、基礎的な魔法は今でも7などといった縁起のいい数字が使われているが、重要な魔法などにおいては、違う数字を複雑に組み合わせるような規律があるんだ。これを始まりの7からとって不幸アンラッキー7と戒法という。お前も将来、魔法を作る立場になるかもしれないからな。よく覚えておけ」

「分かりました」


 そして今日の授業が終わった。






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一応、それなりに調べましたが、7に関しての文化や宗教などは作者の勝手な解釈とさせていただきます。

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